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      第 60話 
         
          
         
天狗退治の藤兵衛(とうべえ) 
岐阜県の民話 → 岐阜県の情報 
       むかし、瀬田坂と呼ばれる急な坂道の両側にとても大きな木が生えていて、道を通る人の邪魔になりました。 
 そこで村人たちは話し合って、中でも一番太くて大きい木を切ってしまおうという事になったのです。 
 その役目に選ばれたのが、木こりの中でも一番腕の立つ藤兵衛です。 
 藤兵衛は一番大きなオノを持ってくると、木の根元に向けて力一杯にオノを振り上げました。 
 するとその時、 
「とーべーえー、とーべーえー」 
と、木の上から呼ぶ声がしたのです。 
「誰か上にいるのか? 今から木を切るから、いるなら早く降りてこい!」 
「・・・・・・」 
 返事がないので、藤兵衛が再びオノを振り上げると、 
「とーべーえー! とーべーえー!」 
と、さっきよりも大きな声が聞こえてきました。 
「まったく、上にいるのは誰だ? 足がすくんで降りられなくなったのか?」 
 そこで藤兵衛が木の上に登ってみると、おいしげった木の上から、まっ赤な顔をした鼻の長い天狗がニューッと顔を突き出したのです。 
「てっ、天狗だー!」 
 びっくりした藤兵衛は転げる様に木から降りると、村に戻って天狗の話をしました。 
 しかし村人たちは、 
「何をバカな事を。天狗なんて、いるはずないだろう」 
「酒でも飲んでいたのではないのか」 
と、信じてくれません。 
「本当なんだ。とにかく来てくれ」 
 藤兵衛は村人たちを木の所へ連れて行くと、下から大声で叫びました。 
「天狗ー! 出て来い天狗ー! 木から降りて、姿を見せてくれ」 
 すると本当に木から天狗が降りてきたので、村人たちはびっくりです。 
「てっ、天狗だー! 何かされる前に逃げろー!」 
 村人たちはあわてて逃げ出しましたが、藤兵衛は逃げようとはしません。 
 藤兵衛は、大声で天狗に言いました。 
「やいやい、さっきは急に出てきて驚いたが、おれはお前なんか怖くないぞ! おれは今からこの木を切り倒すんだ! 邪魔だから、どこかへ行ってくれ!」 
 しかし天狗はどこかへ行くどころか、藤兵衛の言葉を無視して再び木の上に登ろうとします。 
「こらっ! どこかへ行けと言うのが、聞こえねえのか!」 
 怒った藤兵衛は天狗を蹴りつけようとして、足が滑って転んでしまいました。 
 するとそのはずみで藤兵衛がはいていたぞうりが飛んで、天狗の長い鼻に引っかかったのです。 
 その途端、天狗は叫び声を上げました。 
「ぞうりがー! 汚いぞうりが、わたしの顔にー!」 
 そして天狗は、あわててどこかへ逃げてしまいました。 
 
 天狗は、とてもきれい好きだと言われています。 
 藤兵衛の汚いぞうりが自慢の鼻に引っかかったのが、よほどのショックだったのでしょう。 
 
 さて、この様子を遠くから見ていた村人たちは、天狗なんていないと藤兵衛を馬鹿にした事を謝りました。 
 そして藤兵衛は『天狗退治の藤兵衛』と呼ばれ、それから多くの仕事を依頼される様になりました。 
      おしまい 
         
         
        
        
      
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