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第 62話
白馬岳の手巻
長野県の民話 → 長野県の情報
むかしむかし、白馬岳(しろうまだけ)の東のふもとに長者が住んでいました。
長者の家には、手巻(てまき)という名の美しい一人娘がいます。
その手巻の美しさは遠くの村まで広まり、手巻が十六、七の年頃になるとあちらこちらから「嫁に欲しい」と声がかかりました。
けれど長者は大事な一人娘を手放すのが嫌で、どんな金持ちから声を掛けられても結婚話を断りました。
そんなある日、手巻は一人の若者を好きになりました。
それを父親の長者に知れたら大変なので、手巻は人の目を盗んでその若者に会いに行きます。
若者も手巻と会っている事は、誰にも言いませんでした。
しかし小さな村なので、いくら人目を忍んでも二人の噂は村中に知れ渡りました。
そして噂を知った長者夫婦は手巻に内緒で若者の所へ行くと、手巻と別れるように言ったのです。
この村では、長者に逆らって生きる事は出来ません。
「分かりました。娘さんとはお別れします。この村を離れて、どこか遠くで暮します」
次の日、若者は手巻に別れ話をしました。
「訳あって、これから遠くへ旅立ちます」
「では、わたしも家を出て、あなたについて行きます」
「・・・いえ、一人で旅立ちます。もう二度と、あなたにお会いする事はありません」
この言葉を聞いた手巻は、若者が他の女を好きになったと勘違いをしました。
手巻は髪の毛を逆立てると、震える声で言いました。
「裏切られた女のうらみを、思い知れ!」
手巻は口から火を吐く魔物に姿を変えると、若者を小脇にかかえて白馬岳の方へ飛び去ったのです。
翌朝、長者が村人達を連れて手巻と若者を探しに白馬岳へ行くと、白い大桜草が血で真っ赤に染まっていたのです。
そしてその年から、今まで雪の様に白かった大桜草の花は紅紫色になったという事です。
おしまい
別れ話を切り出したのは手巻の方で、魔物になったのは若者だという説もあります。
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