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福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 10月の江戸小話 > よくみとどける
10月18日の小話
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よくみとどける
父親が、おっちょこちょいな息子をしかっていました。
「なんでお前は、そうも早とちりなんだ! 横町のごいんきょが死んだなどと言いおって!」
「あれ? 死んでませんでした?」
「バカ、先ほどピンピンして、表を通り過ぎて行ったぞ。いいか、今後は何事も、よくみとどけるんだ。決して、よくみとどけぬうちに、いうものではない」
父親はそう言って、吸っていたたばこの吸いがらを灰皿に入れました。
しかし吸いがらは灰皿から転がって、父親のひざの上に落ちてしまいました。
父親はそれに気がつかずに、さらにお説教をしていると、吸いがらから煙りが出て着物が燃え出しました。
「ややっ! これはどうしたわけじゃ」
父親があわてて消すと、息子はすました顔で、
「先ほどから、知っておりました」
と、言います。
「それなら、なぜ早く言わないのだ!」
父親が怒ると、息子は言いました。
「親父さまは、さっきから『よくみとどけぬうちに、いうものではない』と、おっしゃっていましたから、吸いがらが燃え出すのを見てから、教えようと思っておりました」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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