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第 135話
杭にぎり
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むかしむかし、向笠(むこうがさ)と言うところに、伊太郎(いたろう)という男が住んでいました。
ある晩の事、酒に酔った伊太郎が上気嫌で村の近くまで帰ってきた時、後ろからついてくる美しい娘がいました。
(おや? 若い娘がこんな時間に一人とは。・・・ははーん、さてはキツネだな。おれさまをだまそうとしても、そうはいかんぞ)
伊太郎は娘に近づくと、いきなり娘の手をつかんで言いました。
「お前がキツネだという事は、わかっているんだ! この手は、絶対にはなさんからな!」
するとびっくりした娘が、涙ながらに言いました。
「あたしは、キツネではありません。どうか手を、はなして下さい」
しかし伊太郎は、娘がいくら頼んでも手をはなそうとはしません。
しばらくすると、娘が困り果てたような声で言いました。
「お願い、用を足したいの。だから、その手を離して」
娘はおしっこをしたいと言うのですが、伊太郎はプイと横を向いて、
「逃げようたって、そうはいかん。小便がしたいのなら、このままそこでしろ」
と、言います。
「・・・そんな」
娘はしばらくもじもじしながらがまんしていましたが、そのうちにあきらめてその場にしゃがむと、ショボショボと音をたてながらおしっこをはじめました。
伊太郎は娘から目をそらすと、娘のおしっこが終わるまで横を向きました。
ところがいくらたっても、ショボショボというおしっこの音が止まりません。
(なんと長い小便だ)
伊太郎はだんだん気になってきましたが、かといって見るわけにもいかず、横を向いたまま待ち続けました。
やがて、夜が明けてきました。
(いくらなんでも、これはおかしい)
酔いの覚めてきた伊太郎は、意を決して娘の方を見てびっくり。
「しまった! だまされたー!」
なんと娘の手だと思ってつかんでいたのは杭(くい)で、ショボショボという音は近くの水門に水が流れる音だったのです。
おしまい
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