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第 169話

猫の鳴き声

にあう
徳島県の民話徳島県の情報

 むかしむかし、ある村に、とてもきれいな娘さんがいました。
 その娘さんの家の近くに、仕事もしないで遊んでばかりのなまけ者の男がいます。
 困った事にこのなまけ者の男が、娘さんを好きになったのです。
 男は娘さんの家へ行くと、娘さんのお父さんに言いました。
「どうか、娘さんをおらの嫁にくれ」
 男がなまけ者と知っているお父さんは、男をにらみつけて言いました。
「とんでもない! お前みたいななまけ者に、大切な娘をやるもんか!」
「これからは真面目に働くから、娘さんをおらにくれ」
「駄目だ! 帰れ!」
「そこを何とか」
 お父さんがいくら断っても、男は引き下がりません。
「いい加減にしろ! だいたい、わしの可愛い娘が、お前なんぞに似合うものか!」
 お父さんが怒鳴ると、男は負けずに言い返しました。
「それなら、誰かが似合うと言ったら、娘さんをくれるのか?」
「何を馬鹿な事を。どこを探したって、うちの娘にお前が似合うなんていう者はおらんわい。何なら、村中に聞いてみろ」
 こう言ってお父さんは、男を家の外に追い出しました。
 でも、男はあきらめません。
「なに、村中を探せば、一人ぐらいは似合うと言う奴がいるさ」
 男はさっそく、村中を歩き回ってさっきの話しをしました。
 すると誰に聞いても、同じ事を言います。
「お前には、似合わん」
 中にはお腹をかかえて、大笑い出す者もいます。
「日本中を探したって、お前の嫁になる女なんているものか」
「・・・ちくしょう! こうなったら、あの手で行こう」

 男は野良猫を一匹捕まえると、ふところに入れて娘さんの家へ行きました。
 そして男は家に飛び込むなり、いろりのふちにいた娘さんの横に座りました。
 これには、お父さんもお母さんもカンカンに怒りました。
「なんてずうずうしい奴だ! すぐに娘から離れろ!」
「まあ、待ってくれ。娘さんがおらの嫁に似合うという者がおったら、娘さんをくれると言っただろう?」
「まだ、そんな事を言っているのか! そんな者がいるはずないだろう! さあ、もう帰ってくれ!」
 すると男は、ふところから猫を出してひざの上に乗せました。
 そして猫が逃げない様に体を押さえながら、猫のお尻を思いきりつねりました。
 すると猫はびっくりして、
「ニァーウ(にあう)! ニァーウ(にあう)!」
と、鳴いたのです。
「さあ、似合うと言ったぞ。だから、娘さんをおらの嫁にくれ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 お父さんもお母さんも娘さんも、あきれて物も言えませんでした。
 そしてもちろん、男はお父さんに追い出されてしまいました。

おしまい

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