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第 196話
ふたつのネズミ船
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むかしの江戸の町は、『火事が名物』と言われるほど火事の多い町でした。
さて、ある年の冬に起きた火事は三日三晩も燃え続けて、江戸の町の三分の二が焼け野原になりました。
火事の後は食べる物がなくなってしまい、江戸の人たちはさらに苦しい暮らしが続きました。
そしてこの大火事で、江戸のネズミたちも困った事になりました。
何とお腹を空かせた人間たちが、ネズミを捕まえて食べ始めたのです。
「このままじゃ、江戸中の仲間がいなくなってしまう」
江戸のネズミたちは相談して、江戸から引っ越しする事にしました。
「さて、どこへ行こうか。どうせなら暖かくて、食べ物がいっぱいあるところがいいな」
「それじゃ、九州がよいぞ。九州は暖かくて、米やイモがたくさんあると聞いたぞ」
「決まりだ。みんなで九州へ行こう」
こうして何十万匹という江戸のネズミたちが船に乗って、九州へと旅立ちました。
さて、江戸を離れて、三日ほどたった夜明けの事です。
海の向こうから、一隻の船がやって来ました。
不思議な事にその船もネズミ船で、何十万匹というたくさんのネズミが乗っていました。
「おーい、お前たちはどこのネズミだ?」
江戸のネズミが尋ねると、その船のネズミが答えました。
「わしらは、九州のネズミでごわす。これから江戸へ行くところでごわす」
「なんだと? そいつは無理無理、止めておけ」
江戸のネズミの親分は、九州のネズミに大火事の話をしました。
「てなわけでよ、おらたちはこれから九州へ行って、暖かく幸せに暮らそうとと思うんだ」
すると、九州のネズミの親分が出て来て言いました。
「なるほど、それでわかったでごわす。
実は江戸の大火事は九州にも伝わり、欲の深い人間たちが米を高く売ろうと、九州からどんどん運び出しておるんでごわすよ。
ネズミはその米を食うからと、見つけしだい殺されるでごわす。
だからみんなで相談して、米がたくさん集まる江戸に逃げようとしたんでごわすが、江戸がそんな様子じゃ、行っても仕方がないでごわすなあ」
そこで海の上で出会った江戸のネズミと九州のネズミたちは、あれこれと相談をしました。
「江戸へ行けば、人間に捕まって食われる。
九州では、欲の深い人間たちに殺される。
これじゃ、どっちに行っても死ぬだけだ。
どうせ死ぬなら、みんなで海に飛び込んで死んでやろうじゃないか」
こうして、ふたつの船の何十万匹というネズミたちは、次々と海へ飛び込んで行ったそうです。
おしまい
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