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第 211話
嫁さんになったイチョウの木の精
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むかしむかし、ある村に、若い木こりがお母さんと一緒に住んでいました。
ある日の事、木こりは今まで行った事がない山へ行って、道に迷ってしまいました。
「困ったな。日も暮れて来たし、どうしようか」
その時、遠くの方に家の明かりが見えました。
「助かった。あそこに誰かが住んでいるぞ」
木こりが大喜びして明かりの方へ近づくと、そこには見た事がないほど立派なイチョウの木が庭に生えている屋敷があって、その屋敷の中から美しい娘さんが出てきたのです。
「あの、突然ですみませんが、帰り道が分からなくて困っています。どうか今夜一晩泊めてください」
木こりが頼むと、娘さんはニッコリ笑って、
「それはそれは。何のおかまいも出来ませんが、どうぞ遠慮なく泊まってください」
と、言いました。
この家では娘さんと父親が二人で住んでいて、二人とも親切に木こりをもてなしてくれました。
それにしてもこの娘さん、見れば見るほど美人で、木こりはすっかりこの娘さんが気に入ってしまいました。
そこで木こりは、思い切って娘の父親に頼んでみました。
「親父さま。どうか娘さんを、おらの嫁にください」
すると父親も、この若い木こりが気に入っていたので、
「いいとも。その代わり娘を、大事にしてくだされよ」
と、言ってくれたのです。
「ありがとうございます」
木こりはとても喜び、次の朝、娘さんを連れて家に帰りました。
嫁になった娘さんは、とても気立てが良くて働き者でした。
木こりの母親も、良い嫁が来てくれたと大喜びです。
こうして、三人の幸せな毎日が過ぎていきました。
ある年の事、この国の碁(ご)が大好きな殿さまが、新しい碁盤(ごばん)を作る事になり、
《見事なイチョウの碁盤を作った者には、ほうびをつかわす》
と、いうおふれを出しました。
それを聞いた木こりたちは殿さまにほうびをもらおうと、一生懸命に立派なイチョウの木を探しました。
でもどこを探しても、殿さまの碁盤を作るのにふさわしいイチョウの木が見つかりません。
「どこかにイチョウの木はないものか。立派なイチョウの木は。・・・あっ、そうだ!」
木こりは娘さんの実家の庭に、立派なイチョウの木がある事を思い出しました。
そこで木こりがその事を嫁さんに話すと、嫁さんはまっ青な顔で言いました。
「あのイチョウの木を切るなんて、とんでもない! あのイチョウの木は、とても大切な物です。ほうびなんていらないから、イチョウを切るのはやめてください!」
「うーん。お前がそこまで言うのなら」
木こりは嫁さんにそう言いましたが、でもどうしても殿さまのほうびが欲しくて、夜になると嫁さんに黙ってイチョウの木を切りに行ったのです。
「よし、これほど見事な木で碁盤を作れば、きっと殿さまはほうびをくださるだろう」
木こりは一晩かかってイチョウの木を切り倒すと、その木を運び出すために一度家に戻って来ました。
「おーい、今帰ったぞ。お前と約束はしたが、やっぱり木を切る事にした。・・・おーい?」
家に入った木こりが嫁さんを探しましたが、どうした事か嫁さんの姿がありません。
そこで木こりは、ふとんの前でボンヤリと座っている母親に尋ねました。
「おい、おっかさん。おらの嫁はどこへ行った?」
すると母親は、目からポロポロと涙を流しながら言いました。
「それが、お前が出かけてから嫁がひどく苦しみ出してな。ふとんに寝かせて背中をさすってやったが、嫁はみるみる細くなって、こんな姿になってしまったんじゃ」
「・・・もしや!」
木こりが嫁の寝ていたふとんをめくって見ると、そこにはイチョウの木くずと枯れたイチョウの葉っぱが落ちていました。
嫁さんは、イチョウの木の精だったのです。
おしまい
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