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第 267話
玉虫の涙雨
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むかしむかし、あるお城に働く女中に、玉虫という名前の美しい娘がいました。
玉虫は美しいだけでなく、とても心優しい娘で、おまけに朝から晩まで一生懸命に働くのです。
それに玉虫はご飯を炊くのがとても上手で、殿さまは玉虫の炊いたご飯しか食べないほどでした。
ある日の事、女中仲間の娘が玉虫に意地悪をしてやろうと、ご飯を炊いている玉虫にこう言ったのです。
「玉虫さん。先ほど、女中頭が玉虫さんを探していましたよ」
「あら、何かしら?」
玉虫が女中頭を探しに出かけると、女中仲間の娘は玉虫が炊いているご飯の中に小さなヘビを入れたのでした。
さて、玉虫の炊いたご飯はおひつに移されて、お殿さまが食べるおわんにご飯が盛られたのですが、それを食べていた殿さまは、ご飯の中から小さなヘビが出て来たのでびっくりです。
「ヘ、ヘビじゃ!」
それを知って怒った家来たちは、すぐに玉虫を捕まえました。
「よりにもよって、殿のご飯にヘビを入れるとは許せん!」
「違います。わたしはヘビなど入れていません」
玉虫がそう答えても家来たちは信じてくれず、ひどく責められた玉虫は、その日の晩に城を抜け出して山の中の沼に身を投げてしまいました。
それは満月が美しい、八月十三日の事でした。
その次の年から、この辺りでは毎年八月十三日になると必ず雨が降りました。
人々はその雨を玉虫の涙と思い、この日に降る雨を『玉虫の涙雨』と呼んだそうです。
おしまい
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