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第 294話
鬼がふらせる大雪
福井県の民話 → 福井県情報
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投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
【大人もぐっすり眠れる睡眠朗読】クスッと笑える楽しいとんち 日本昔ばなし集 元NHKフリーアナ
むかしむかし、福井県の木の芽峠(きのめとうげ)というところに、人食い鬼が出るとのうわさが立ちました。
そんなある日、富山県の新保村というところから薬売りがやってきました。
人食い鬼のうわさでどの薬売りも木の芽峠へ近づかないので、よい商売が出来ると思ったのです。
(さて、この辺りだな、人食い鬼が出るのは)
薬売りが用心深く歩いていると、ふいに背後から現れた人食い鬼が、大きな手で薬売りをひょいとつまみ上げました。
「まずそうな人間だが、しかし腹ペコでいるよりはましだ」
人食い鬼がそう言って、今にも薬売りを食べようとした時です。
薬売りがとっさに、大声で叫びました。
「わしの体には、毒が流れているぞ!」
「何、毒だと・・・。しかし毒など、鬼のわしにはきかぬは」
「ならば食べてみるがいい。わしの毒は、熊も殺す猛毒じゃ!」
「ぬ、ぬぬぬ・・・」
そこで人食い鬼は仕方なく、薬売りに言いました。
「では、食うのを許してやる。その代わり、日本一強くなる薬をよこせ」
「分かった、日本一強くなる塗り薬を塗ってやろう」
薬売りは背中の荷から唐辛子の粉を出して水に溶くと、鬼の背中にペタペタと塗りつけました。
「ウギャーーー!」
唐辛子が毛穴からしみこんでいき、人食い鬼は思わず悲鳴を上げました。
「がまんせい! 良薬は口に苦しと言うであろう」
「しかしこれは、まるで背中が火事になったようだ。頼むから、助けてくれ〜」
「仕方ない、痛み止めを塗ってやろう」
そう言うなり、薬屋はからしの粉を取り出すと、まっ赤になった人食い鬼の背中に塗りつけたのです。
「ヒョゲーーー!」
人食い鬼は哀れな悲鳴をあげながら山に登ると、雲にのって空の上へと逃げていきました。
「うむ、人食い鬼を退治してやったわ」
薬売りは意気揚々と、峠を下っていきました。
それから毎年冬になると、薬売りの住んでいる新保村に大雪が降るようになりました。
あの時の人食い鬼が、仕返しに大雪を降らせているということです。
おしまい
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