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第 332話

そばを買いにきたタヌキ

そばを買いにきたタヌキ
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 むかしむかし、江戸の与兵衛(よへえ)というそば屋に、八歳くらいの男の子がかごをさげてそばを買いに来ました。
 店を閉める前の忙しい時間だったので、お店の人は急いでかごにそばを入れてやりました。
 男の子はにっこり笑うとお店を出ていきましたが、あとで気づくと男の子からお金をもらっていませんでした。

 次の日も、同じ時間に男の子がやって来ました。
 大雨が降っているのに、男の子は傘もささずにずぶぬれです。
 お店の人が男の子のかごにおそばを入れてやりましたが、あとで気づくとやはりお金をもらうのを忘れていました。

 三日目の夜も大雨でしたが、やはり男の子は同じ時間にずぶぬれのままおそばを買いにきたのです。
 お店の人たちが、今度は間違わないようにと先に言いました。
「そばは売ってやるが、先に二日分のお金を出してもらおうか」
 すると男の子はかごを放り出して、そのまま逃げてしまいました。
「あっ、逃げやがったな。待てー! 二日分の代金を払いやがれー!」
 お店の人が後を追いかけましたが、店を出た男の子は一軒先の横丁を曲がるとそのまま姿を消してしまいました。
「ちぇっ。逃げ足の速い小僧だ。横丁を曲がったと思ったら、もう姿が見えない。どこの子かわからんが、もう店には来ないだろう」

 ところが次の日、お店の人がたまたま店の外を見ていると、またも同じ時間に男の子がやって来たのです。
「あの小僧だ。とっ捕まえて、こらしめてやろう」
 お店の人たちは目で合図をして、うなずきあいました。
 そして男の子がお店の戸を開けたとたん、
「それっ!」
と、お店の人たちは、男の子に飛びかかって男の子を捕まえました。
 びっくりした男の子は、そのまま目を回して気を失ってしまいました。
「さて、どうしたものか?」
 お店の人たちが男の子を取り囲んで相談していると、戸のすき間からのら犬が入ってきて男の子のにおいをかぎだしました。
 すると気を失っていた男の子の体がガタガタと震えて、ドロンと大ダヌキの姿を現したのです。
「あっ、タヌキ!」
 大ダヌキは素早く起きあがると、びっくりするお店の人たちの間をすり抜けて、どこかへ逃げていきました。

 それからは、男の子がそばを買いに来ることは二度とありませんでした。

おしまい

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