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第 362話
小三郎池
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むかしむかし、ある村に、小三郎(こさぶろう)という木こりの若者がいました。
小三郎は、木こりの親方の家で働いている、ちんまという飯炊きが上手の女の人が好きでした。
そして、ちんまも、小三郎の事が好きだったのです。
ある日の事、小三郎は、いつものように、ちんまの作ってくれた弁当を持って、仲間の木こりと山へ出かけました。
そしてお昼になったので、小三郎が沢まで水を汲みに下りて行くと、とても大きな岩魚(いわな)が泳いでいたのです。
「ほほう、これは大きな岩魚じゃあ、捕まえて、あいつと分けて食ってやろう」
さっそく小三郎は岩魚を捕まえると、河原へ引き上げて焼き魚にしました。
そして、味見に一口食べてびっくり。
「これは、何てうまいんだろう!」
生まれて初めてのおいしさに、味見だけでは止まりませんでした。
「うまい、うまい。少しぐらい残してやりたいが、これほどうまくては、どうにもならん」
こうして小三郎は、一人で全部食べてしまったのです。
するとどうした事か、小三郎は急に水が飲みたくなりました。
そこで小三郎は川のふちに手をついて、川の水をガブガブと飲んだのですが、いくら飲んでも喉の渇きがおさまりません。
そしてどんどん飲んでいるうちに、小三郎の体はみるみる大きくなっていきました。
さて、その頃、小三郎の帰りが遅いので、仲間の木こりが様子を見に来ました。
「おおーい、小三郎! どこへ行ったんだー!」
そして仲間の木こりは、川のふちに大蛇がいるの見つけました。
「ひぇーーっ! 大蛇じゃー!」
慌てて逃げようとする仲間のきこりに、大蛇が大きな口を開けて言いました。
「わしじゃ、小三郎じゃ」
「ひぇーーっ! 大蛇がしゃべったー! 大蛇が小三郎と言ったー! ・・・へっ? こ、小三郎? お前、小三郎か? その姿、一体、どうしたんじゃ?!」
大蛇になった小三郎は、仲間の木こりに悲しそうな目を向けて言いました。
「許してくれ。おれはお前と食べようと取った岩魚を、残さずに食ってしまったんじゃ。その罰で、こんな姿になってしまったんじゃ」
そして大蛇になった小三郎は、ずるずるとはいずっていくと、近くの池の中に消えてしまいました。
さて、その話を聞いた、ちんまは、毎日毎日、山に来ては小三郎が消えていった池をながめて涙を流しました。
やがてその涙は水たまりとなり、水たまりは池になって、とうとう、ちんまも小三郎恋しさのあまり大蛇に姿を変えて、その池の主になってしまったのです。
やがて人々は、小三郎が消えた池を、
『小三郎池』
ちんまの涙で出来た池を、
『ちんまヶ池』
と、呼ぶようになりました。
そしてある日の事、ちんまヶ池はすっかり枯れてしまいました。
人々はそれを見て、
「とうとう、ちんまは想いを遂げて、小三郎のいる小三郎池にお嫁に行ったんだな」
と、言ったそうです。
おしまい
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