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第123話

ハンスとカエルの嫁さん

ハンスとカエルの嫁さん
ドイツの昔話 → ドイツの国情報

 むかしむかし、ある小さな美しい村に、お母さんと三人の息子が住んでいました。
 お母さんは住んでいるこの家を、三人の息子のうち誰にあげようかとまよっていました。
 一番上の息子は、とても勉強が出来ましたが、働くのがきらいです。
 二番目の息子は、とてもよく働くのですが、ひどいケチでした。
 三番目の息子は、とてもやさしいのですが、お人好しで、すぐにだまされてしまいます。
「あの子たちの、誰を選べばいいのかしら? ・・・そうだわ」
 ある事を思いついたお母さんは、息子たちを呼ぶと三束の亜麻(あま→アマ科の一年草)を一束ずつ手渡して言いました。
「お前たち、この亜麻を好きな娘さんにつむいでもらいなさい。一番上手につむいで、いい織物(おりもの)をこしらえた娘さんを連れてきた息子に、この家をゆずろうと思うの」
「そりゃあ、いい考えだ!」
「うん。賛成!」
 一番上の息子と二番目の息子は、亜麻の束を持ってすぐに家を飛び出して行きました。
 一番上の息子は、こう思いました。
(ぼくの好きな娘はつむぐのが上手だから、家はぼくの物だ。家があれば、結婚してもちょっとだけ働けばいい、あとは好きな勉強ができるぞ)
 二番目の息子は、こう思いました。
(ぼくの好きな娘はつむぐのが早いから、家はぼくの物だ。おまけに娘はお金持ちだから、お金をたくさん持って嫁に来てくれるだろう)
 でも三番目の息子は、しょんぼりと亜麻の束を持って家を出ました。
(こまったな、ぼくには好きな娘はいないし)
 三番目の息子は行く所もないので、いつもの散歩道(さんぽみち)の沼地(ぬまち)をブラブラと歩いていました。
 するとどこからか、しゃがれた声がしました。
「ハンス、何かお困りかい? ケロ」
「誰だい?」
  三番目の息子のハンスが立ち止まってあたりを見ると、小さな木のしげみから一匹のヒキガエルが飛び出して来たのです。
  ヒキガエルは丸い目で、ハンスを見つめて言いました。
「ハンス、暗い顔をしてどうしたの? ケロ」
「ヒキガエルが、しゃべった!」
「ビックリしなくても大丈夫だ。ケロ。それより、何を困っているんだ? ケロ」
  そう言われてハンスは、お母さんに言いつけられた事を話して聞かせました。
  するとヒキガエルは、ハンスのひざに飛び乗って言いました。
「それじゃあハンス、亜麻をつむぐのはわたしにやらせてよ。ケロ。あしたまでに、つむいでおくから。ケロ。そしてわたしが一番なら、ハンスの花嫁さんよ。ケロ。教会の結婚式には、白い花嫁衣装を用意して待っててね。ケロ。約束よ。ケロケロ」
  ヒキガエルがあまりにうれしそうに言うので、ハンスはつい亜麻の束を渡してしまいました。
  ヒキガエルは亜麻の束を抱えると、どこかへ行ってしまいました。
「ああ、行っちゃった。それにしてもぼくは、なんてまぬけなんだろう。大事な亜麻を、カエルなんかにあげてしまって。あの家をすてたも、同じじゃないか」
 ハンスは肩をガックリと落としながら、家に帰りました。

  次の日、ハンスが沼地へ出かけて行ってビックリです。
  小さな木のしげみに、フワリと大きな花が咲いたような、きれいな織物がかかっているではありませんか。
「こんなきれいな織物、見たことないや」
  ハンスはその織物を持って、家に帰りました。
  お母さんは、ハンスが持って帰ってきた織物を一目見て言いました。
「ハンスの織物が、一番上等だよ。この家は約束通り、ハンスにあげましょう。さあハンス、この素晴らしい織物をつくった花嫁さんを連れておいで。花嫁衣装を用意して、教会で式をあげましょう」
「あ、それが、その・・・」
  ハンスは何と答えたらよいか、困ってしまいました。
「さあ、何をグズグズしているの。はやく連れておいで」
  お母さんにせかされたハンスは花嫁衣装(はなよめいしょう)の用意をして教会へ行き、牧師(ぼくし)さんに結婚式のお願いをしました。

  夕方になり、村人たちが教会に集まって結婚式が始まりました。
  でも牧師さんの前に立っているのは、ハンス一人です。
  村人たちは、ヒソヒソ言いました。
「花嫁は、どうしたのかね?」
「花嫁がいないと、結婚式は出来ないよ」
  二人の兄さんは、顔を見合わせてニヤリと笑いました。
「どうしたハンス? このまま花嫁が来なけりゃ、この結婚はなかったことになるぞ」
「そうだ。花嫁が来なけりゃ、家をもらえる約束もなかったことになるぞ」
  ハンスは恥ずかしくて恥ずかしくて、どこかへ逃げてしまいたい気持ちです。
  このまま花嫁が来ないのも恥ずかしいし、もし来てもヒキガエルの花嫁と結婚するのも、もっと恥ずかしいし。
(こんな事なら、ヒキガエルに亜麻を渡すんじゃなかった。思い切って、逃げてしまおうか)
  その時、教会の扉(とびら)が大きく開きました。
  村人たちは、いっせいにふりかえります。
  そして中に入ってきたのは、あのヒキガエルでした。
(もうだめだ! 恥ずかしくて死にそうだ!)
 ハンスは顔を真っ赤にしましたが、他の人たちは訳がわからず、きょとんとしています。
 ヒキガエルはピョンピョン飛びはねながら、ハンスと牧師さんの方へやって来ました。
  そしてハンスと牧師さんにペコリと頭を下げてあいさつをすると、花嫁衣装のある控室(ひかえしつ)に行ったのです。
(こうなれば、あのヒキガエルを連れて逃げよう!)
  ハンスは、ヒキガエルのあとを追いかけました。
  するとヒキガエルはハンスの目の前で、花縁衣装に飛び込んだのです。
「あっ! ヒキガエルが!?」
  なんとヒキガエルは花嫁衣装に飛び込んだとたん、花のようにかわいらしい娘さんの姿になったのです。
  花嫁衣装を着た娘さんが、ハンスに言いました。
「ハンス、ありがとう。ハンスさんがわたしを花嫁にしてくれたので、悪い魔法がとけました。さあ、結婚式をはじめましょう」
 こうしてハンスは娘さんと結婚して、お母さんにもらった家で幸せに暮らしました。

おしまい

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