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7月19日のイソップ童話
お百姓と木
あるお百姓の畑に、一本の木がはえていました。
この木は、すこしも実がならない木で、ただ、うるさくさえずるスズメや、やかましいセミたちの宿になっているだけでした。
「こんな木はなんの役にもたたない。切りたおしてしまおう」
と、お百姓はオノを持ってきて、
「ガーン」
と切りつけました。
セミたちとスズメたちは、
「お願いです。この木を切りたおさないで下さい。ぼくたちのお宿なのですから。どうか、このままにしておいて下さい。ぼくたちがここで歌を歌えば、あなただってゆかいでしょう」
しかしお百姓は、セミやスズメの願いなどおかまいなしに、またオノをふりあげて、
「ガーン」
もういちど、
「ガーン」
と切りつけました。
ところが、木の幹のさけたところを見ますと、ミツバチの巣があって、ミツがたっぷりたくわえられていました。
お百姓はそのハチミツをおいしそうになめました。
そしてオノを放り出して、それからというものは、この木を神さまのように大切に思って、よくせわをしたそうです。
こんなふうに、人間はものごとを公平に考えることよりも、自分の得になることにはむちゅうになるものです。
おしまい