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3月2日の日本の昔話
岩になった鬼
むかしむかし、深い山おくに、鬼の親子が住んでおりました。
ある日のこと、鬼は子鬼を肩に乗せて、山のふもと近くまでおりてみました。
すると、ひとりのおじいさんが、小さな女の子の手を引いて、トボトボとやってきます。
おじいさんは空をあおいで、手を合わせておがみだしました。
鬼は思わず、
「じい、なにをしとる」
と、声をかけました。
おじいさんは、いきなり雷のような声がふってきたので、ビックリして見あげると、おそろしい鬼の顔が見おろしています。
「ヒェーーッ!」
腰をむかしたおじいさんに、鬼は今度はやさしく、
「こわがらんでもよい。なにをしとるか、いうてみれ」
と、声をかけてきました。
「あの、わしらはこの下の浜辺の者だが、毎年、夏になると、海が荒れて、家の者が大波にひとりさらわれ、ふたりさらわれ、とうとうこの孫と、ふたりぼっちになってしまいましたのじゃ。そこで神さまに、海が荒れんよう、お祈りしとるところですじゃ」
鬼は手をかざして、海を見おろしました。
「そうか、それは気の毒にのう」
それからしばらくたった、ある日の朝。
鬼が目をさますと、外はたいへんなあらしでした。
鬼は、ハッとあのおじいさんのことを思い出し、うなり声をあげて立ちあがりました。
鬼はいきなり、小山ほどもある岩に抱きつくと、
「うりゃあっ!」
と、持ちあげて、ズデーンとほうり出しました。
続けて鬼は、もう一つの大岩もゆさぶり持ちあげ、ズデーンとほうり出しました。
そして鬼は、長い鉄棒で二つの岩に穴をあけると、だんごのようにつきさし、岩を通した鉄棒をかつぎあげて、子鬼にやさしくいいました。
「おとうは浜へいく。おまえはここで、おとなしゅう待っとれ」
「いやだ、いやだ、おれもいくぅ」
「・・・そんなら、この岩の上に乗れ」
鬼は腰がくだけそうになるのをこらえて、一足、一足と、山をくだっていきました。
海は白いキバのような波をもりあげ、ドドーッと押し寄せてきます。
村人が波に押し流されまいと、家やクイに、必死でしがみついています。
鬼は子鬼に、
「おりろ、ここで待つんだ」
と、いいましたが、子鬼は首を振っておりません。
「ようし、そんなら泣くなよ!」
鬼はそういうと、足を海へふみ出しました。
波はくるったように押し寄せ、鬼にぶつかってきます。
鬼は首を振り、うなり声をあげて進みましたが、すさまじい波に足をさらわれて、ドテンと倒れました。
しかし、鬼は倒れながらも、岩の上の子鬼をおぼれさせまいと、岩を高くさしあげ、そのままズブズブと海に入り、ついに姿が見えなくなってしまいました。
波は鬼のからだと、さしあげた岩にさえぎられ、やがて海は静かになっていきました。
そしていつのまにか、鬼の体は岩になりました。
「おとう!」
岩の上で子鬼はワンワンと泣きました。
泣いて泣いて、泣き疲れて、その子鬼もとうとう小さな岩になりました。
今でもこの浜には、2つの大岩と、その上にちょこんとのっている小岩が残っているそうです。
おしまい