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6月14日の日本の昔話

山寺の菩薩

山寺の菩薩

 むかしむかし、京の都にちかい山寺に、それはそれは学問のある、えらい和尚(おしょう→詳細)さんがおりました。
 そしてふしぎなことに、このお寺には、とてもありがたいことがおこるのです。
「さよう、普賢菩薩(ふげんぼさつ)ともうされて、いつもお釈迦(しゃか)さまのおそば近くにつかえて、わたくしどもにおじひをおさずけくださる、ありがたい仏さまが、像(ぞう)におのりになって、まい晩まい晩、この寺にお見えになるのでございます」
 この話は都にもつたわって、おおぜいの人たちが寺をたずねてきては、普賢菩薩(ふげんぼさつ)さまをおがんでかえるのでした。
 和尚さんはいつもうれしそうに、お寺まいりの人たちに、
「わしは何十年もながいあいだ、ただの一日も、お経をかかしたことがござりませぬ。それできっと、このようなありがたい仏さまが、おがめるようになったのでござりましょう」
と、話しをするのでした。
 ある日のこと。
 ひとりの猟師(りょうし)が、この山寺へやってきました。
 和尚さんは、猟師に、
「あんたは、まい日、生きものを殺してばかりおられるが。これからは心を入れかえて、仏につかえてはどうじゃな。ありがたい普賢菩薩(ふげんぼさつ)さまのおすがたをおがんで、今夜はゆっくりここにおとまりなされ」
「へえ、よろこんでとめていただきましょう」
 猟師は今夜もあらわれるという、ふしぎな仏さまをひとめでもおがんでおこうと考えて、おすがたのあらわれるのをまつことにしました。
 さて、真夜中(まよなか)になると和尚さんは、
「もうそろそろ、おでましになりますから、どうぞ、こちらへ」
と、猟師を本堂へあんないしました。
 本堂のとびらをあけると、和尚さんは入り口のしきいのところに両手をついて頭をさげました。
 おともの小僧さんも、頭をさげます。
 三人はながいあいだ、普賢菩薩(ふげんぼさつ)のおでましをまちました。
 すると、ポツンと一つ、白い光が東の空にあらわれたのです。
 そしてその光はこちらへくるにつれて、だんだん大きくなり、寺のまわりの山やまを明るくてらしだしました。
 光はやがて、雪のような白いゾウになると、背中に普賢菩薩(ふげんぼさつ)さまをのせて、しずかに寺の前にたちました。
 仏さまのおからだからは、まぶしいほどの後光(ごこう→神さまや聖人などの背後に、円形または輪状・放射状に見える光線)がさしています。
 和尚さんと小僧さんは、頭をさげたまま、
「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
と、いっしんにお経をとなえはじめました。
 ところが、猟師はふたりのうしろに立って弓に矢をつがえると、菩薩(ぼさつ)さまをにらみつけています。
 そして、菩薩(ぼさつ)さまめがけて矢を放ちました。
 ビューン!
 矢は菩薩(ぼさつ)さまの胸の中心に、ふかくつきささりました。
 ゴロゴロゴロー!
 突然、雷がはげしく鳴りひびいて、寺は大ゆれにゆれました。
 白いゾウのすがたも、菩薩さまのすがたも消えて、あとはただ、ヒューヒューと、やみの中を吹きまくる風の音ばかりです。
 和尚さんは猟師を見ると、かみつくようにわめきました。
「なっ、なんと! なんということを、しでかしたのじゃ!」
 すると猟師は、おだやかにこういいました。
「和尚さま。どうか気をおしずめなされて、わしのもうすことをお聞きくだされ。あの菩薩(ぼさつ)さまからは、けもののにおいがしました。ほかの人は気づかなくとも、わしの鼻はごまかされません。あのにおいはタヌキです。それも人の肉を食らう、年老いた古ダヌキにまちがいありません。お怒りはわかりますが、どうか夜のあけるまで、おまちください」
 そして朝になりました。
 猟師と坊さんは、白いゾウが立っていたところへいって、辺りをしらべてみました。
 すると、そこには血のあとと、数本のけものの毛がのこっていました。
 二人が血のあとをたどって、ひと山こえていくと、ほら穴の前に猟師の矢に心臓をいぬかれた、大ダヌキが死んでいたのです。
 そのまわりには、この大ダヌキが食べちらかした人間の骨がたくさんころがっていました。

おしまい

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