福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 8月の江戸小話 > しんでから、一人前
8月16日の小話
しんでから、一人前
あるとき、用たしのかえりに、はかばのそばをとおりかかった男が、
「たしか、ともだちの源七(げんしち)のはかが、ここにあったっけ。あいつは、おぼっちゃんで、おつきのものがいないと、ひとりではなにひとつできない男だったな。しんでから、どうしているだろう。たまには、おまいりしてやるか」
と、はかばへ入っていきました。
「うん、ここだ、ここだ」
男が、源七のおはかにせんこうをあげて、手をあわせていると、
ヒュウー、ドロドロドロー
はかいしの後ろから、源七のゆうれい(→詳細)があらわれました。
「よくきてくれた。ほんとうにうれしいよ。だれもきてくれなくて、さみしかったんだ」
「そいつは、こころぼそかったろう。そういうわけなら、これからも、ちょくちょく遊びに来るよ。で、あの世のくらしぶりはどうだい?」
「いやあ、さすがに、めいどへの道には、おつきのものも、つきあってはくれず、こころぼそかったよ。はかばにきてからも、てつだってくれるものもおらず、なにもかも、じぶんひとりで、やらにゃあならん。さっきの『ヒュー、ドロドロドロー』だって、おれがやって、でてきたんだぜ。おかげさまでしんでから、ようやく一人前になれたよ」
おしまい