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12月23日の小話
貧乏浪人
長屋(ながや→むかしの集合住宅)の一番おくの家に、ひどく落ちぶれた、貧乏浪人(お城づとめをしていない、まずしい武士 →詳細)が住んでおりました。
「火の用心・・・。火の用心・・・(→詳細)」
この長屋にも、毎晩、夜まわりがやって来ます。
ところが、この夜まわりは、浪人の家の手前まで来ますと、いつもそこから引き返してしまうのです。
(けしからんやつだ! わしが貧乏浪人だとおもって、バカにしているな。)
これが、毎晩のことなので、浪人は、不愉快(ふゆかい→おもしろくないこと)で不愉快でたまりません。
今夜もまた、いつものように夜まわりがやって来ましたが、いつもどおりに浪人の家の手前まで来ると、さっさと引き返していこうとしています。
浪人は、腹にすえかねたのか、おもてに飛び出していって、
「おまえは、どうしておれの家の手前まで来ると、そのまま引き返していってしまうのだ! おれをバカにしているのか!」
と、いいました。
すると、夜まわりの人がいいました。
「ですが、だんな。あなたのところには、かまどはおろか、ロウソク一本さえ、ないじゃないですか」
「むむっ、・・・たっ、たしかに、おれの家には、ロウソク一本ないが」
「でしょう。火の気がないんじゃ、火の用心してもしょうがないじゃないですか」
「むむむっ、・・・」
言い返せない浪人は、苦しまぎれにいいました。
「だが、うちの家計は火の車(家計が苦しいこと)だ。その火がもえうつって、いつ火事になるか、知れたもんじゃない」
おしまい