
  福娘童話集 > きょうの日本民話 > 3月の日本民話 > 美しい山姫
3月9日の日本民話
  
  
  
  美しい山姫
  岡山県の民話 → 岡山県情報
 むかしむかし、備前の国(びぜんのくに→岡山県)に一人の猟師がいました。
   ある日の事、けものを追うのに夢中で、あちこち走りまわっているうちに、どんどん山奥へ入り込んでしまい、道に迷ってしまいました。
  「さて、これはこまった事になったぞ。この山は夜になると化け物が出ると聞くからな」
   猟師が草木をわけて進んでいくと、ふいにうしろで人の気配がしました。
   ふり返ってみると、なんと一人の娘が立っていて、ニッコリとほほえんでいるではありませんか。
   年は二十才ほど、まるで絵からぬけ出たような美人で、顔はすきとおるように白く、肩までたらした黒髪はつややかで、花がらの着物もめずらしく、あふれるような色気があります。
   いくらなんでも、こんな山奥にこんな娘がいるはずありません。
  (もしかして、人に姿を変えた化け物では?)
   男はすばやく鉄砲を持ちなおすと、娘の胸をめがけて玉をうち込みました。
   ズドーン!
   ところが娘は、その玉をひょいと右手で受けとめると、牡丹(ぼたん)の花のような口びるにくわえて、ニッコリほほえむのです。
  (まぎれもなく、こいつは化け物だ)
   男はあわてて鉄砲に玉を込めて、二発目を打ち込みました。
   ズドーン!
   それでも娘は顔色一つ変えず、今度は左手でその玉を受けとめると、いかにも楽しそうに笑うのです。
   さすがの男もこわくなり、その場に鉄砲を投げすててかけ出しました。
   やっとの事で山から出ることができましたが、思い出すだけでも、体がブルブルとふるえます。
   その夜、物知りで有名な近所の老人のところへ行って、今日の出来事を話しました。
  「キツネやタヌキなら、もっと悪さをするはずだし、山姥(やまんば)が化けたにしては、あまりにもきれいすぎる」
   すると老人は、男に言いました。
  「それは山姫(やまひめ)というものじゃ。めったなことではあえぬ妖怪(ようかい)だが、それはそれは美しい姿だというぞ。べつに悪さをするわけではなく、おとなしくしていれば宝物をくれるという話じゃ」
  「なんと。そうとわかっていれば、鉄砲などうつのではなかった。まことに残念なことをした」
 男はひどくくやしがり、それから何度も同じ山へ出かけて見ましたが、ついに山姫にあうことは出来ませんでした。
おしまい