
  福娘童話集 > きょうの日本民話 > 3月の日本民話 > タバコ入れの中のお守り
3月17日の日本民話
  
  
  
  タバコ入れの中のお守り
  香川県の民話 → 香川県情報
 むかしむかし、ある山奥に、山仕事をしている人たちのすむ小さな村がありました。
   村のはずれにすむ吾作(ごさく)は、からだが小さいのにたいへんな力持ちです。
   ほかの者たちが五、六人かかってひきだす木も、一人で軽々(かるがる)とひきだしてしまうのです。
   そのうえ吾作は働き者で、山仕事がない日は大きなカゴを背負って山奥を歩き、山菜(さんさい)などをとっていました。
   ある日の事、今日は山仕事がないので、吾作はいつものように大きなカゴを背負って山奥へ入り、山菜をとって山道をおりてきました。
   するときゅうに日がかげり、目の前が夜のように、まっ暗になったのです。
   吾作は足を止めると、空を見あげてビックリしました。
   なんと大きな岩ほどもある大男が、吾作の前に立っていたのです。
   でも、気の強さと力じまんでは、だれにも負けない吾作は、
  「そんなところにつったっていてはじゃまだ。どいてけろ!」
  と、いいました。
   吾作を見おろす大男は、だまって笑っています。
  「何をしている! じゃまだから、どけといっとるんだ! どかねえなら、谷底へころがしてやるぞ!」
   吾作は背負っていたカゴを置いて、すもうをとるかっこうをしました。
   すると大男は、ニヤリとわらい、
  「ほほう。わしとすもうをとるというのか。こいつはおもしろい」
   大男はズシンズシンと地ひびきをたてて、しこをふんで組みあいましたが、なんと吾作にひょいとひねられて、ゴロンところがってしまったのです。
  「ふん。ずうたいがでっけえだけで、なんの力もありはせん。さあ、どいた、どいた。いつまでもせまい道にひっくりかえってねえで、どいてけろ」
   吾作が背負いカゴをとろうとすると、大男はよほどくやしかったのか、
  「まて。もう一度勝負しろ。今度はおいらが、お前をひねってくれるわ」
   そういって吾作にかかっていきましたが、またころがされてしまいました。
  「なんと。こんなはずでは・・・」
   そのとき、大男の目玉がギロリと光りました。
  「そうか、わかった、それじゃよ。腰にぶらさげたそのタバコ入れが気になって、力が入らねえんだ。それをはずして勝負しろ」
  「ああ、いいだろう。何度やっても同じ事だ」
   吾作は腰からタバコ入れをはずして、道のわきになげました。
   次の日の朝、山仕事にでかけた村の人たちは、どこからころがってきたのか、山奥の道をふさいだ大岩の下じきになって、押しつぶされている吾作を見つけました。
   吾作が投げ出したタバコ入れの中を見ると、中にはたくさんのお守りが入っていました。
   吾作はこれまで、そのお守りに守られていたのでしょう。
 吾作はこのお守りを手放したばかりに、死んでしまったのです。
おしまい