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4月2日の日本民話
  
  
  
  おりょう坂
  茨城県の民話 → 茨城県情報
 むかしむかし、ある村に、おりょうという名の、たいへん美しい娘がいました。
   おりょうは小さいころから、糸つむぎをするのが毎日の仕事でした。
   ある日の事、買い物に出たおりょうは、夜になっても帰ってきません。
   親や近所の村人たちが探しましたが、とうとう見つける事が出来ませんでした。
   何日たっても見つからないので,おりょうはバケモノに食われてしまったんではないかと、村人たちは思いました。
   それから半年ほどすぎたある雨の夜、山の坂道でおりょうの姿を見たという村人が現れました。
  「あれは、どう見てもおりょうだ。まちがいねえ。だが声をかけても何にも言わなかったし、顔色も悪かったな」
   それを聞いた、一人の若者が、
  「よし、おれがたしかめてやる」
  と、言って、鉄砲(てっぽう)をもってその場所に出かけました。
   次の日の朝、その若者が帰って来ないという事で、村はまた大さわぎになりました。
   村人がその場所に行ってみると、若者や女のすがたはなく、若者の鉄砲だけが落ちていました。
   その夜は、村一番の力持ちが、そして次の夜は、村一番の腕のいい猟師が出かけましたが、みんな帰ってきません。
   そこで村の若者たちは集まって、相談をしました。
  「これは、一人で行くのはあぶねえ。みんなで行ったほうがよいぞ」
   そしてその夜は、若者たち数人で出かけることにしました。
   そして山の坂道に行ってみると、おりょうらしい女が、あんどんの明かりの下で糸をつむいでいるではありませんか。
   若者の一人が、
  「もし、おりょうさんでは?」
  と、声をかけましたが、返事がありません。
   何度声をかけても返事をしないので、女の顔を見ようと近づいた若者の一人がとつぜん、
  「これは、おりょうのバケモノだ!」
  と、さけぶなり、
   ズドーン!
  と、鉄砲をうったのです。
   すると女の姿もあんどんの明かりも、とつぜん消えてしまったではありませんか。
   ところが、しばらくすると、
  「アッハッハッハ。アッハッハッハ」
  と、高笑いとともにその女が現れて、また何事もなかったように糸をつむいでいるのです。
  「まちがいない! これはバケモノだ!」
  「いままでの三人も、このバケモノにやられてしまったんだ」
  「しかしどうすればいいんだ? 鉄砲も役にたたんでは」
  「まてよ、あのあんどんの明かりがどうも変だ。もしかして、あれがバケモノの正体では?」
   そう言うと、一人の若者があんどんの明かりをねらい、
   ズドーン!
  と、鉄砲をうちました。
  「ギャーッ!」
   けたたましいひめいが聞こえたかと思うと,女の姿もあんどんの明かりも消えてしまいました。
   そしてよく見ると、女のいたあたりに、何やら大きな黒いかたまりがあるのです。
   若者たちがおそるおそる近付いてみると、そこにはなんと、ウシのような大きさのガマガエルが、片目をうたれて死んでいるではありませんか。
   バケモノの正体は、このガマガエルだったのです。
   その後、この村にバケモノが出ることはなくなりましたが、村ではこの山の坂道を、「おりょう坂」とよぶようになったという事です。 
おしまい