3年生の日本民話(にほんみんわ)
イラスト 知瑛美
養老(ようろう)の滝(たき)
岐阜県(ぎふけん)の民話(みんわ)
むかしむかし、美濃の国(みののくに→岐阜県(ぎふけん))の山里に、
たいへん親孝行(おやこうこう)な若者(わかもの)がおりました。
貧乏(びんぼう)で、毎日の食べる物(たべるもの)にも不自由(ふじゆう)する暮(く)らしでしたが、年とった父親のために一生けんめい働(はたら)いて、おいしいものを食べてもらい、少しでも長生きをしてもらおうと思っていました。
その父親は、何よりもお酒(さけ)が好(す)きでしたが、しかし、米を買うお金さえろくにかせげないので、お酒(さけ)などめったに手に入れる事(こと)はできません。
それでも息子(むすこ)は、父親がお酒(さけ)を飲(の)むときのしあわせそうなようすを思い浮(おもいう)かべると、なんとかしてあげたいと、奥山(おくやま)にわけ入ってたきぎをとるのでした。
そんなある日、若者(わかもの)は岩から足をふみはずして、あっというまに谷底(たにぞこ)へころがり落(お)ちてしまいました。
気を失(うしな)ってしばらくすると、のどがかわいて目をさましました。
「ああ、水が飲(の)みたい」
体を起(お)こしてあたりを見ると、岩かげから水の音が聞こえてきます。
「ありがたい。川があるようだ」
若者(わかもの)がかけよると、そこには見上げるばかりの滝(たき)が、しぶきを立てて流れ落(ながれお)ちていたのです。
若者(わかもの)は、足もとに泡立(あわだ)つ水を手にすくって、口にふくみました。
「むむっ。これは!」
なんとそれはただの水ではなく、これまで飲(の)んだこともないような、かぐわしいお酒(さけ)だったのです。
「ああ、ありがたいことだ。これを持ち帰(もちかえ)れば、おとうがどんなに喜(よろこ)ぶことか」
若者(わかもの)は腰(こし)にさげたひょうたんにお酒(さけ)をくみとると、いそいで家に帰りました。
「遅(おそ)かったな。お前の身の上(みのうえ)になにかあったかと、心配(しんぱい)しとったよ」
息子(むすこ)はニコニコしながらうなづくと、ひょうたんのお酒(さけ)を父親に差し出(さしだ)しました。
「なんだこれは、水か? ・・・うむ! これはうまい!」
一口飲(の)んだ父親は、目を丸くしました。
「こんなにかぐわしい酒(さけ)を、わしはこれまで飲(の)んだことがないぞ。いったいどこで手に入れたんじゃ」
息子(むすこ)は山奥(やまおく)で起(お)きたふしぎなできごとを話して聞かせると、父親はいいました。
「それは、お前がいつも親孝行(おやこうこう)をしてくれるので、神(かみ)さまがごほうびにくださったのだよ」
この話はまもなく、奈良(なら)の都(みやこ)の天皇(てんのう)の耳に伝(つた)わりました。
天皇(てんのう)はたいそう感心(かんしん)すると、若者(わかもの)に山ほどのほうびをくださり、そればかりか年号(ねんごう)を「養老(ようろう)」とあらため、
滝(たき)に「養老(ようろう)の滝(たき)」という名をさずけたという事(こと)です。
おしまい
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