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3年生の日本民話(にほんみんわ)
アワの長者(ちょうじゃ)
静岡県(しずおかけん)の民話(みんわ)
むかしむかし、ずーっとむかしのむかし話だよ。
ある村に、働き者(はたらきもの)じゃが、貧(まず)しい暮(く)らしをしている男がおりました。
「ああーっ、腹(はら)へったなー。腹(はら)いっぱい飯(めし)食ってみてえなあ〜」
いつも腹(はら)をすかせている男の見る夢(ゆめ)は、食べる夢(ゆめ)ばっかりだった。
ある晩(ばん)のこと、男は真(まこと)に不思議(ふしぎ)な夢(ゆめ)を見た。
荒地(あれち)の果(は)てからやってきた、白い一頭の馬。
馬は光に包(つつ)まれ、まぶしいほどの白さじゃった。
馬は、ずっしりとよく実(みの)った金色のアワの穂(ほ)を、美味(おい)しそうに食べている。
じっと見つめていると、白い馬は急(きゅう)に首を振(ふ)った。
口元からポーイと飛(と)んだアワの穂(ほ)は、空中でクルクルと舞(ま)ってキラキラ金色に輝(かがや)きながら、男の前に落(お)ちてきた。
「あっ、夢(ゆめ)か、夢(ゆめ)! 何という夢(ゆめ)じゃ。金のアワ。それに神々(こうごう)しい白い馬、神(かみ)さまが現(あらわ)れたあの荒地(あれち)は」
夢(ゆめ)から醒(さ)めた男は、あの白い馬が立っていた荒地(あれち)は、自分が一度(いちど)行ったことのある場所(ばしょ)だと気付(きづ)いた。
朝が来るのを待(ま)ってさっそく出かけ、見覚(おぼ)えのある、その荒地(あれち)にたどり着(つ)いた。
「ここだ、間違(まちが)いない。夢(ゆめ)の場所(ばしょ)とおなじだ。・・・あっ!」
驚(おどろ)いたことに、荒地(あれち)の果(は)てからアワの穂(ほ)をくわえた夢(ゆめ)で見た白い馬が、男に向(む)かって歩いてきた。
そしてくわえていた、その金のアワの穂(ほ)を男に渡(わた)した。
「ああ、ありがたい。きっとこれは、この荒地(あれち)を耕(たがや)して、アワをうえなさいという、神(かみ)さまのお告(つ)げにちがいない」
男はそう信(しん)じて、そこの荒地(あれち)を耕(たがや)しはじめた。
春を待(ま)って、種(たね)をまき。
夏、照(て)りつけるお日様(ひさま)。
畑(はたけ)に這(は)いつくばって、せっせと草を取(と)った。
秋になると、男の植(う)えたアワの穂(ほ)は重(おも)く実(みの)り、あたり一面金色(いちめんきんいろ)に輝(かがや)いて波打(なみう)った。
大豊作(だいほうさく)だ。
それを売りさばいた男は、たちまち大金持(おおがねも)ちとなって「アワの長者(ちょうじゃ)」と呼(よ)ばれた。
それから何年か経(た)ったある年。
村はまた、ひどい飢饅にみまわれた。
これまでにない厳(きび)しい寒波(かんぱ)が襲(おそ)って、子供(こども)たちは腹(はら)を空かして寒(さむ)さにおびえ、泣(な)きわめいた。
村の者(もの)は集(あつ)まって、相談(そうだん)した。
「アワの長者(ちょうじゃ)さまに、おねがいしてみるか」
「そうだそうだ、あそこの蔵(くら)には、山ほどアワでもなんでも仕舞(しま)い込(こ)んである。むかしはわしらと同じ貧乏(びんぼう)だった長者(ちょうじゃ)さまだ。助(たす)けてくれるに違(ちが)いない。」
そう話がまとまると、皆(みな)して長者(ちょうじゃ)さまのお屋敷(やしき)に詰め掛(つめか)けた。
散々頭(さんざんあたま)下げてお願(ねが)いすると、それまで黙(だま)って聞いていた長者(ちょうじゃ)さまは一言大声を出した。
「うるさい! 聞きとうない! アワは一粒(ひとつぶ)もない! 無断(むだん)で蔵(くら)を開(あ)けたら、アワが無(な)くて泡(あわ)食うぞ! わかったか! さっさと出て行け!」
皆(みな)が帰った、その夜のこと。
「こら、人の屋敷(やしき)の土壁(つちかべ)に何ということをする!」
村の衆(しゅう)は、壁(かべ)から、床下(ゆかした)から、所(ところ)かまわず、隠(かく)し込(こ)んだアワをガリガリこさぎだした。
長者(ちょうじゃ)は、村の衆(しゅう)がやることは高がしれてるとたかくくって眠り込(ねむりこ)んだ。
カリカリカリ、カリカリカリ
音は、蔵(くら)から聞こえてきた。
「なんじゃ、なんじゃ、村の盗人(ぬすっと)だな!」
「あわわわわああ!」
長者(ちょうじゃ)は気を失(うしな)って、へたり込(こ)んでしまった。
カリカリカリ、カリカリカリ
忙(いそが)しくアワを食べていた何万匹(なんまんびき)ものネズミたちが、急(きゅう)に静(しず)かになったと思うと、いきなり、どっーと音を立てて、蔵(くら)も御殿(ごてん)のようなお屋敷(やしき)も、もろとも崩(くず)れ落(お)ちた。
立ち上る土煙(つちけむり)が収(おさ)まると、廃墟(はいきょ)となった広場に何万というネズミたちが、ひとかたまりに集(あつ)まった。
そうして光に包(つつ)まれ、金色のアワの穂(ほ)をくわえた白い馬が姿(すがた)を現(あらわ)した。
やがて白い馬は、前足をそろえ、蹴(け)るように高く上げると、ゆっくりと空へ駆(か)けのぼっていった。
「ああっ、あの白い馬、夢(ゆめ)の中の神(かみ)さまの馬だ。」
人の苦(くる)しみをかえりみなかった長者(ちょうじゃ)は、全(すべ)てをなくして、やっと自分の愚(おろ)かさに気付(きづ)いた。
「泡(あわ)食った長者(ちょうじゃ)」は改心(かいしん)して、皆(みな)と残(のこ)ったアワを分けあった。
それからというもの男は、村の皆(みな)とせっせと荒地(あれち)を耕(たがや)し、助け合(たすけあ)って仲良(なかよ)く暮(く)らしたんだと。
めでたし、めでたし。
おしまい
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