
  福娘童話集 > きょうの日本民話 > 10月の日本民話 > ハチとクモとアリ
10月3日の日本民話
  
  
  
  ハチとクモとアリ
  奈良県の民話 → 奈良県情報
 むかしむかし、ハチがクモのところへやってきて、
  「クモさん、二人でお伊勢(いせ)さまに、お参りしないか?」
  と、言いました。
  「それはいい、毎日たいくつしていたところだ。さっそく出かけよう」
   そこで二人は旅じたくをして、お伊勢参りに出かけました。
   するとその途中に、財布(さいふ)が一つ落ちていました。
  「あっ、財布だ!」
   クモがあわててひろおうとすると、ハチが言いました。
  「だめだよ。わしが先に見つけたんだよ」
  「うそつけ、わしが先だ」
   二人は財布をはさんで、けんかをはじめました。
  「やいやい、お伊勢さまにいこうと言ったのは、このわしだ、わしがさそわなかったら、この財布は見つからなかったぞ! だから財布はわしの物だ!」
   ハチが、いばって言うと、
  「なにを言う。わしが下をはっていたから見つけたんだ。お前は空ばかり飛んでいたじゃないか!」
  と、クモがおこって言いました。
  「なにをー!」
  「やるかー!」
   二人はとうとう、とっくみ合いのけんかをはじめました。
   するとそこヘ、アリがやってきました。
  「やめろ、やめろ。こんなところでけんかをしてはじゃまだ」
   アリが二人の間にわって入ったので、二人はやっとはなれました。
  「いったい、どうしたというのだ?」
   アリが、たずねました。
  「クモさんが悪いんだ。わしの見つけた財布を先にひろおうとしたからだ」
  「うそつけ、財布を見つけたのは、おれが先だ」
  「なにおーっ」
  「なんだとーっ」
   二人はまた、にらみ合いました。
  「わかった、わかった。おれにまかせろ。おれがけんかしないように、ちゃんとわけてやる」
   アリはその財布を見て、ニヤリと笑いました。
  「うむ。だいぶお金が入っているようだ。これは百文(→一文は30円ほど)はあるな。でも、人の落とした財布を自分のものにするのはよくないな。ちゃんとお役所に届けなくちゃ」
  「ええっ」
  「そんなーっ」
   クモとハチは、ガッカリして顔を見合わせました。
  「心配するな。ひろったお金を届けたらお礼がもらえる。だから先に、わしがお礼はわけてやる」
   アリは財布からお金を出して、かぞえはじめました。
  「クモさんには九文、ハチさんには八文、残りはお役所に届けよう」
   そう言って、二人に九文と八文を渡すと、アリは残りのあり金を全部持っていってしまいました。
 クモは九、ハチが八、アリは、あり金を全部という事です。
おしまい