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10月16日の日本民話
  
  
  
  あさことゆうこ
  長野県の民話 → 長野県情報
 むかしむかし、信濃(しなの)のある山の東と西のふもとに、それぞれ小さな村がありました。
   この二つの村は、ちょっとした事でけんかになり、村人たちはもう五十年も行き来していません。
   さて、東の村に、とてもかしこい女の子がいました。
   この女の子は朝早く生まれたので、あさこと名づけられました。
   あさこは村の人気者で、村の人たちはあさこを見かけると、だれでも声をかけます。
  「あさこ、元気か?」
  「あさこ、これ食べろや」
   ある日の事、東の村の年よりたちが集まって、思い出話に花をさかせていました。
  「西の村とは長い事つきあいがねえが、どうじゃろう、ここらで一つ、ちえくらべでもやってみねえか。こっちにはあさこがいるから、負けるわけはねえぞ」
  「そうだな。おらたちが勝ったら、西の村を東の村の子分(こぶん)にして、あの山に道を作らそう」
  「そりゃ、ええ考えだ」
   さっそく村一番の弓の名人が、矢文(やぶみ)を西の村へ放ちました。
   西の村では、村の広場に矢が飛んできたのでビックリ。
  「こりゃ、東の村から飛んできたものじゃろうか?」
   矢文についた手紙を広げてみると、こんな事が書いてありました。
  《あさっての昼に、山のてっぺんでちえくらべをしよう。こっちからは娘一人を出すが、そっちは何人出してもかまわない。負けた村は勝った村の子分になって、一年以内に二つの村の間にある山に道を作ること。東の村より》
   それを読んだ村人たちは、大笑いです。
  「はっはっは。東の村のやつめ、こっちには、ゆうこという、かしこい娘がいるのを知らんな。これでもう東の村は、おらたちの子分に決まったようなもんじゃ」
  「よし、すぐに返事の矢文を飛ばそう」
   こうして、ついにちえくらべの日がやってきました。
   東の村からは、あさこが。
   西の村からは、ゆうこが、たった一人で出かけていったのです。
   さて、五十年ものあいだ誰も通らなかった峠(とうげ)の道は、すっかり荒れはててしまい、女の子の足でのぼるのは大変な事でした。
   おまけに頂上近くには、東の村側には大木が、西の村側には大きな岩があって、それぞれの行く手をふさいでいるのです。
   やっとの事で二人は頂上にたどり着き、そこでバッタリと出会った二人は、思わずジッと顔を見あわせました。
  「あんたが、ゆうこ?」
  「うん、ゆうこ。・・・あんたが、あさこ?」
  「うん、あさこ。・・・なんだか、似てるねえ」
  「うん。そっくりじゃ」
   あさことゆうこは、とてもよく似ていました。
   しかも似ているのは顔だけでなく、好きな食べ物に、嫌いな食べ物、好きな花に、嫌いな虫、そしてなんと、生まれた日までいっしょだったのです。
   二人はすぐに、仲良しになりました。
  「でも、どうして今まで、二つの村は行き来をしなかったんだろう?」
  「本当にねえ。にらみあっていたって、仕方ないのに」
  「ねえ、あたしたちの力で、二つの村が仲良くできるようにしない?」
  「うん。そうしよう」
   そこで二人で相談して、ある作戦を考えました。
   あさことゆうこがそれぞれの村へ帰ると、村ではみんなが首を長くして待っていました。
  「おそかったな。して、どうじゃった?」
   あさこは、みんなに話しました。
  「今の今までちえくらべをやりあっていたけど、ちえくらべは引き分けになった」
  「なに、引き分けじゃと?」
   村の人たちは、ガッカリです。
  「それでな、次の勝負は二人でこう決めた。あすの夜明けを合図に、いっせいに峠の道を作りはじめて、一日でも早く頂上まで道を作りあげたほうが勝ち」
  「ふむふむ、なるほどのう」
  「まあ、この村は力持ちが多いでな、こっちの勝ちと決まってら」
  「そうじゃ、そうじゃ」
   東の村も、西の村も、今度こそ自分たちの村が勝つぞと、えらくはりきりました。
   こうして次の日から東の村と西の村は、道づくりに取りかかったのです。
   暑い日も、寒い日も、雨の日も、風の日も、一日も休むことなく、道づくりはすすめられました。
   あさことゆうこは、ときどきこっそりあって工事のようすを知らせあい、同時に道ができるように気をくばりました。
  「西の村は、あの大岩をどければ、もう終わりよ」
  「東の村は、あの大木をたおせば、もうおしまいよ」
  「いよいよ明日だね」
  「うん。また明日」
   さて次の日、東の村の人たちは大岩をどけると、大声でさけびながら頂上めがけて走っていきました。
   西の村の人たちも大木をどけると、大声でさけびながら頂上めがけて走っていきました。
  「やったあ! 東の村の勝ちじゃ!」
  「やったあ! 西の村の勝ちじゃ!」
   そして頂上で、バッタリと二つの村の人たちが出会ったのです。
  「ああっ、西の村の衆が・・・」
  「ああっ、東の村の衆が・・・」
  「また引き分けじゃ。ええい、もう半日早ければ勝ったのに!」
  「それはこっちの言葉じゃ。ほんとうにくやしいー」
   するとそこへ、東の村の長老が、西の村の長老に言いました。
  「おや? お前はもしかして、泣き虫の与作(よさく)でねえのか?」
  「そう言うお前は、はなたれの与平(よへい)でねえか」
  「なんだお前は、泣き虫だったくせに、えらいじいさまになっちまって」
  「お前こそ、あのはなたれが、こんなおいぼれになっちまって」
  「はっはっはっは、まったくじゃ。ところで与作よ。こうして同時に道ができあがったのも、何かのえんじゃ。今までの事は水に流して、おたがい仲直りしてはどうだろう?」
  「おう。わしの同じ事を考え取ったとこだ」
と、いうわけで、山の頂上では、二つの村が仲直りした宴会がはじまったのでした。
おしまい