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8月11日の世界の昔話
月の中のウサギ
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むかしむかし、ウサギには、三匹の友だちがいました。
サルと、山イヌと、カワウソです。
ある日のこと、ウサギはふと、あしたが精進日(しょうじんび)であることに気がつきました。
精進日というのは、仏さまの教えを守って身をきよめ、困っている人にほどこしをする日のことです。
「あした、もしものごいでもきたら、せいいっぱい助けてあげよう」
みんなは、ウサギの意見に賛成して、家に帰りました。
つぎの日の朝、カワウソは食ベ物をさがしに、ガンジス川の岸までおりていきました。
ちょうどそのとき、ひとりの漁師が七匹のコイをつかまえて、草の中にかくし、もっと下の方へと出かけていったあとでした。
「この魚は、だれのものかね」
カワウソは三ベんよんでみましたが、返事がありません。
そこで、だまってもらってくることにしました。
山イヌも、食ベ物をさがしにいきました。
畑の番人の小屋から、肉や牛乳のにおいが流れてきます。
「この食ベ物は、だれのだい。持っていくよ」
山イヌは三ベんよんでみましたが、だれも現れません。
そこで、やっぱりもらっていくことにしました。
サルも森へいって、マンゴー(→詳細)の実をたくさん集めてきました。
ところがウサギは、なにも見つけることができませんでした。
貧乏なので、家にはゴマも米も、なにもありません。
「そうだ、もしだれかが食ベ物をもらいにきたら、わたしはその人に自分の肉をあげよう」
ウサギの心は、天上に住む神さまにとどきました。
神さまは、みんなの心をためしてやろうと思いました。
そこで、神さまはお坊さんに姿を変えて、まずカワウソの家にやってきました。
カワウソは、
「さあお坊さま、どんどんめしあがってくださいよ」
と、コイ料理をすすめました。
つぎに訪ねた山イヌの家では、畑の番人のところからとってきた肉や牛乳を出されました。
そしてつぎに訪ねたサルの家では、マンゴーと冷たい水を出されました。
そして最後にウサギの家に行くと、ウサギはほほえみながら、待ちうけていました。
「精進日のほどこしをしたくて、あちこちかけ回ったのに、ごちそうは手に入りませんでした。そこできょうは、わたしをめしあがってください。けれど、わたしを殺してしまえば、いましめを破ることになります」
ウサギは、一生けんめいに話しました。
「すみませんが、火をおこしてください。そうしたら、わたしは自分で火の中に飛びこみましょう。焼けたころ取り出して、めしあがってください」
神さまが火をおこすと、ウサギはいそいそと火の中へ飛びこみました。
ところが、炎の中へ身を投げたというのに、ウサギはやけどひとつしていません。
「あれ? おかしいな」
ふしぎがるウサギに、神さまがいいました。
「信仰心(しんこうしん)のあつい、かしこいウサギよ。おまえの徳(とく→よい行い)が、のちの世の人にかたりつがれるよう、記念をしておこう」
神さまはそういって、大きな山をつぶし、そのしぼった汁で、月の表面にウサギをえがきました。
それからというもの、月には、ウサギの姿が浮かぶようになったのです。
おしまい