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8月20日の世界の昔話
  
  
  
  岩じいさん
  中国の昔話 → 国情報
 むかしむかし、あるところに、二人の兄弟がいました。
 にいさんがお嫁さんをもらったので、弟は家をでました。
 そのときにいさんは、クワを一本と、ミノを一枚くれただけでした。
 弟はまいにち、そのクワをかつぎ、ミノをしょって山にいきました。
 山のあれ地をたがやして、畑をつくるつもりです。
 あれ地は、だんだんたがやされていきました。
 けれどもまんなかに、大きな岩があって、どうしてもとりのぞくことができません。
 その岩の形は、背中のまがったおじいさんにそっくりでした。
 ですから弟は、晴れた日にはいつもミノをぬいで、岩の上にかけてこういいました。
  「じいさん、じいさん。どうかちょっとのあいだ、このミノをしょっていておくれ」
 それから働いて、くたびれてくると弟は、その岩のそばにすわりこんで、岩にむかってはなしかけました。
  「じいさん、じいさん。おれもあんたみたいに、つかれをしらずにすごしたいもんだよ」
 ところがある日のこと。
 弟がいつものように、その岩にミノをひっかけて、
  「じいさん、じいさん。おれも、あんたみたいに」
  と、いいかけたとき、
  「やれ、わしもくたびれました」
  と、とつぜん岩が口をききました。
  「あんたのこのボロミノは、おもくてかなわんよ。おわかいの。わしはあんたに、銀をすこしばかりやるから、こいつをわしに乗せるのはやめてくださいよ」
 それから岩は、声をひくくして、こういいました。
  「あした、銀をいれるために、自分の背丈ほどの袋を持っておいで」
 弟はいわれたとおりの袋をつくると、あくる日、それを持って山ヘやってきました。
 すると、どうでしょう。
 岩じいさんは、パッと口を開いて、まっ白に光る銀を、ザラザラザラザラと、はきだしはじめたではありませんか。
 弟はあわてて、袋をそばに持っていきました。
 袋は、またたくまに、銀でいっぱいになりました。
  「もう、いっぱいになったかね」
  と、岩じいさんが聞きました。
  「なった、なった、多すぎるくらいだよ」
  と、弟はニッコリして、こたえました。
  「みんな持ってお帰り。あんたはよく働いてくれた。この銀はそのお礼だよ」
 岩じいさんは、それっきり口をとじてしまいました。
 弟は喜んで、銀をしょって帰りました。
 にいさんはこれを見ると、さっそく弟から、クワとミノをかりました。
 そして、山の岩じいさんのところへいって、ミノをその上にかけました。
 それからなにもしないで、じいさんの口をジッと見ていました。
 ところがじいさんは、いつまでたっても口を開きません。
  「おい、いつになったら口をあけるんだい! この、がんこじじい! なんで銀をださないんだ!」
  と、にいさんはわめきました。
 けれども岩じいさんは、やっぱり口を開きません。
 そのうちに、にいさんはうまい方法を思いつきました。
 おもい石を、いくつもしょってきて、岩じいさんのからだの上に、ドスン! ドスン! と、乗せたのです。
 これには、じいさんはくるしくてたまりません。
 とうとう、口を開きました。
  「おまえも、あした、自分の背丈ほどの袋を持って、銀をとりにきなさい」
  「ようしきた!」
 にいさんはうしろをむいて、かけだしました。
  「これ、まてっ!」
 じいさんは、大声でよびとめました。
  「おまえは銀のことばかりにむちゅうになっていて、わしのからだに乗せた石はそのまんまか!」
 それを聞くと、にいさんはシブシブもどってきました。
 そして、岩じいさんの上に乗せておいた石をおろすと、とぶように帰っていきました。
 あくる朝、日の出といっしょに、にいさんは山にのぼっていきました。
 その背中にはなんと、自分の背丈の十倍はある、大きな袋をしょっているではありませんか。
 にいさんは、その大きな袋の大きな口を、岩じいさんの口もとに持っていって、
  「さあ、ドンドンと銀をはきだしてくれ」
  と、いいました。
 じいさんは、めんどうくさそうに銀をはきだしました。
 にいさんは、そのまっ白な銀を袋の口にうけながら、
  (しめ、しめ。こんなにドッサリと銀がありゃあ、ぜいたくにくらせるぞ)
  と、思いました。
 するとそのとき、じいさんが聞きました。
  「もう、いっぱいになったかね?」
 袋の中を見ると、もうすぐいっぱいです。
 けれども、
  「まだだ。まだまだだ!」
  と、こたえました。
 岩じいさんは、銀をドンドンはきだしました。
 しばらくすると、また、
  「いっぱいになったかね?」
  と、聞きました。
 見ると、もう袋の口から、いまにもこぼれそうです。
 けれどもにいさんは、もっともっとほしくてなりません。
  「まだまだ! もっと出すんだ!」
  と、いいながら、もっと銀を出してやろうと、両手をじいさんの口の中へつっこみました。
 そのとき、岩じいさんの口がかたくとじてしまい、にいさんの両手は、おしてもひっぱってもぬけません。
  「口をあけろ! 口をあけろ!」
 にいさんは大声でわめきながら、メチャクチャにあばれました。
 けれども岩じいさんは、かたく口をむすんだままです。
  「たすてくれ。おねがいだあ!」
 にいさんはなみだをながしてたのみましたが、それでも岩じいさんは、口を開きません。
 とうとう、夜になりました。
 にいさんは目をなきはらしながら、まだあばれていますが、両手はやっぱりはさまれたまんまです。
 そのうちに夜がふけて、ま夜中になると、大雨がザアー、ザアーふってきました。
 にいさんは、心配で心配でなりません。
 といっても、自分のからだの事ではなく、袋に山もりの銀が、雨に流されていくからです。
 あくる朝、その銀のちらばった山に、お日さまが、さっと光を投げました。
 すると、ふしぎなことに、白い銀はとけだして、見る見るうちに、きたないドロにかわってしまいました。
 そのまたあくる日の、昼すぎになって、やっとお嫁さんが、にいさんをさがしにやってきました。
 そして、このありさまを見ると、しりもちをついてなきだしました。
  「おい、おい、なくな。それよりおれを、ひっぱってくれ」
 お嫁さんは、ようやくなくのをやめて、にいさんをうしろからだきかかえると、力いっぱいひっぱりました。
  「そーれ、よーいしょ!」
  「ほーれ、こーらしょ!」
 お嫁さんが、かけ声もろともひっぱるたびに、
  「いてててて!」
  「そうれ、よーいしょ!」
  「いてててて! もういい、いたいからひっぱるな! こうなりゃあ、しかたがない。めしを持ってきてたべさせてくれ。腹がいっぱいになったら、また、ぬけだす方法を考えよう」
 それからというもの、お嫁さんは、毎日、毎日、ごはんをはこんでいっては、たべさせました。
 雨の日も、風の日も。
 こうしてはこびつづけて、三年たちました。
 けれども岩じいさんは、やっぱり口を開きません。
 お嫁さんは、家の田や畑ものこらず売ってしまって、いまではすっかり貧乏になりました。
 そのうちに、ごはんをはこんでいくのも、なんだかとてもめんどうくさくなってきました。
 それである日のこと、にいさんにむかって、大声でこんな歌をうたいました。
  ♪はあ、ごはんはこんで、三年と三月。
  ♪いまじゃ、お米もスッカラカン。
  ♪どうにもこうにも、しょうがない。
  ♪いっそ、その手をチョンと、きりましょか。
 これを聞くと、岩じいさんは思わず、ワッハッハと笑いだしました。
 すると、にいさんの手がスッポーン! と、ようやくぬけたのです。
   日本の民話によく似たお話が、多くつたえられています。
おしまい