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10月29日の世界の昔話

わるがしこいクモ

わるがしこいクモ
ナイジェリアの昔話 → 国情報

 むかしむかし、ひでりがつづいて、食べ物がなんにもとれない年がありました。
 たくさんの子どもをかかえたクモがいましたが、たべるものがなんにもないので、みんな、やせていくばかりです。
 ある晴れた日に、クモはゾウの王さまのところへでかけていきました。
「王さま、いつまでもおさかえになりますように。わたくしは、水のカバ王のおつかいでまいりました。あちらには、さかなはすてるほどございますが、ケーキをやくムギがございません。ほんのすこしばかり、ムギをゆずっていただけませんでしょうか。さいしょのとりいれのあとで、カバ王のいちばんりっぱなウマをお礼にさしあげたいとぞんじます。この話は、ゾウ王さまのお耳にだけいれるようにと、カバ王が申しておりました。ですから、どうぞだれにもおっしゃらないでくださいませ」
 ゾウ王はこたえました。
「よし、カバ王のたのみはひきうけた。だが、なぜひみつにしなければならないのか、わからんのう」
 ゾウ王はさっそく、家来のゾウたちに、百カゴぶんのムギを川へはこばせました。
 クモは先にたって、道案内をしました。
 さいごのゾウがカゴをはこんでしまうと、クモは、
「みなさん、もうあとはわたしがひきうけました。どうか帰って休んでください」
と、いって、ゾウたちを帰しました。
 ゾウたちがいってしまうと、クモは大いそぎで家ヘ帰って、妻や子どもたちをよび集め、ムギをひとつぶのこらず自分の家へはこんでしまいました。
 あくる日、クモは川の中にある、カバ王のご殿へいきました。
「王さま、いつまでもおさかえになりますように。わたくしは陸のゾウ王のおつかいでまいりました。ゾウ王のところには、ケーキをやくムギはいくらでもございますが、スープにいれるさかなが一ぴきもありません。そこでおねがいでございますが、さかなを百カゴいただけませんでしょうか。さかながふえて、たくさんとれるようになりましたら、いちばんりっぱなウマをお礼にさしあげると、ゾウ王は申しております」
 カバ王はうなずきました。
「よろしい。ゾウ王ののぞみどおりにしてあげよう。さっそく、みなの者にそうだんして」
 クモは、あわてていいました。
「王さま。ゾウ王からカバ王さまのお耳にだけいれるようにと、かたくいいつけられてまいりました。どうぞ、ひみつにしてくださいませ」
 カバ王はしょうちしました。
 そしてさっそく、家来たちに百カゴのさかなを川岸ヘはこばせました。
「みなさん、あとはわたしがひきうけました。どうか帰って休んでください」
 こういってクモは、カバ王の家来たちを帰しました。
 そして家へとんで帰ると、妻や子どもたちをよび集め、百カゴのさかなを自分の家へはこんでしまいました。
 これで、食べ物の心配はなくなりました。
 クモはどこにもいかないで、一日じゅう、妻や子どもたちと、せっせとつなをつくりはじめました。
 長い長いつなが、できあがりました。
 そして何百万もの貝がらを、そのなわにとおしました。
 さて、とりいれのときがくると、ゾウ王はクモをよびました。
「カバ王がウマをくれるというやくそくを、わすれてはいまいな」
「どうかご安心ください。ちょうどウマをとりにいこうと思っていたところでございます。三日でもどってまいります」
 クモはゾウ王のご殿から帰ると、なわをもって森へでかけました。
 クモは、まいたつなをほどきながら歩いていきました。
 ちょうど、半分ほどといたところで、のこりのつなをおいて、ゾウ王のところへひきかえしました。
「王さま」
 クモは、つなのさきをゾウ王にわたしていいました。
「あしたの夜あけに、カバ王はウマを水からひきだします。このつなの片方のはしにウマをしばります。あすの朝まで、木のみきにつなをまきつけておいてください。木がゆれはじめたら、カバ王のウマがしばられてあばれだしたしるしです。それをごらんになったら、いちばん力もちの家来たちに、つなをひっぱらせてください。ウマがひきずりよせられるまで、けっしてやめてはいけません」
 ゾウ王はクモのいうとおりに、つなをいちばんふとくてガッシリした木のみきにまきつけました。
 その間に、クモはカバ王のご殿ヘかけつけました。
「ゾウ王が、おやくそくのウマをさしあげるようにと申しましたが、わたくし一人では、とてもつれてこられません。そこでウマにつなをつけて、つなをひっぱりよせていただくことにしました。つなの先を川岸の木にしばりつけておきますから、あすの朝、いちばん力もちの家来たちにひっぱらせてくださいませ。ウマが岸にくるまで、おやめになってはいけません」
 あくる朝はやく、カバたちは川岸にでてみました。
 川岸の大きな木のみきに、つながまきつけてあります。
 カバたちはつなをつかんで、自分のほうヘひっぱりはじめました。
 ゾウたちも、つなをまきつけた木がゆれはじめると、ありったけの力をだして、片ほうのはしをひっぱりはじめました。
 カバがむちゅうでひっぱれば、ゾウもすごい力でひっぱります。
 とうとう、日がくれました。
 ゾウもカバも、つかれきってねむりました。
 そして夜があけると、またもやいっせいにつなひきをはじめました。
 けれどもこのつなひきは、いつまでたっても勝負がつきません。
 日が高くのぼったころ、カバ王は家来にいいました。
「こんなにしてもひっぱれないとは、いったいどんなウマだ? 見てまいれ。カバがウマにかなわないなどという話は、いままで聞いたこともない」
 ちょうどそのころ、ゾウ王も家来にいいつけていました。
「カバ王がくれるというウマは、いったいどんなウマだろう? いってしらべてまいれ。ゾウがウマにかなわないなどという話は、聞いたこともない」
 カバ王とゾウ王の家来たちは、森のまんなかでバッタリ出あいました。
 ゾウは、カバに聞きました。
「みなさん、おそろいでどこへいくのですか?」
 カバは、こたえました。
「あなたがたの王さまから、われわれの王さまにおくられたウマがどんなウマか、見にいくところですよ。つなをつけて一日じゅうひっぱっても、まだひきずってこられないのですからね。ところでみなさんは、どこへいくんですか?」
「われわれも、あなたがたの王さまからのおくりものだという、ウマを見にいくところですよ」
 すると、カバの家来たちはビックリしていいました。
「カバ王がゾウ王にウマをおくるなんて、そんな話はなにも聞いていませんよ。川岸からつなをたどってここまできたんですが、どこにもウマなんていませんでしたよ」
 カバとゾウは、それぞれの王さまのところへひきかえしていきました。
 カバ王はこれを聞くと、火のようにおこりました。
「わしがウマをおくるだと? とんでもない! 百カゴのさかなをおくったではないか。さては、あのクモめがだましたな!」
 ゾウ王も家来の話を聞いておどろきました。
「ウマをもらうのはわしのほうだ。百カゴのムギを、こちらからおくったではないか。さては、クモめがだましたな!」
 ゾウ王はカバ王を、たずねていきました。
「もう、おたがいにむだなつなひきはやめましょう。それより、あのけしからんクモを見つけて、こっぴどくこらしめてやりましょう」
 そのころクモは、ジッと家にかくれて、ゾウ王からだましとったムギと、カバ王からだましとったさかなをたべて、のんきにくらしていました。
 ところが、とうとうムギもさかなも、たべつくしてしまいました。
 だからまた、食べ物をさがしに外へ出なければならなくなりました。
 でも、ゾウやカバに出あいたくはありません。
 クモがあたりを見まわしていると、道ばたに病気で死んだカモシカの皮がありました。
 たちまち、うまい考えがうかびました。
 クモはカモシカの皮をかぶって歩きだしました。
 けれども、そのカモシカのひずめは地面をひきずるだけですし、頭はプラプラとゆれています。
 まったく、見るもあわれなカモシカです。
 すると、むこうからゾウ王がやってきました。
 ゾウは、ヨボヨボのカモシカを見て声をかけました。
「カモシカよ。クモをさがしてくれないかね。わしとカバ王をだましたわるいやつだ」
 クモは、カモシカの声をまねしてこたえました。
「クモをさがすんですって? しーっ、大きな声をださないでください。とんでもないめにあいますよ。わたしをごらんなさい。クモとけんかしたばっかりに、わかい元気なわたしがこのありさまです。クモが足をわたしのほうへむけたとたんに、からだがドンドンとしなびてしまったんですよ」
「ほんとうか!」
 ゾウ王はおどろきました。
「ほんとうですとも。どんなものでも、クモに足をふりあげられたらさいご。骨までしなびてしまいますよ」
 ゾウ王は、おそろしくなって、
「クモをさがすのはやめた。クモにあっても、わしのことはだまっていてくれ。たのむ」
と、あわててにげだしました。
 クモはいそいでカモシカの皮をぬぎすてると、先まわりをしてゾウをまちました。
 そして、すました顔で、
「もしもし、わたしをさがしておいでのようですが」
と、いいながら、足をふりあげるまねをしました。
 ゾウはガタガタとふるえながらさけびました。
「い、いや、ちがう、ちがう。あっちヘいけ。いってくれ、はやく」
 クモは足をふりあげて、思いっきりおどすと、ゆうゆうとひきかえしました。
 そしてまたカモシカの皮をかぶって、こんどは川岸にいきました。
 ちょうどそのとき、カバ王は川岸をさんぽしていました。
 カバ王はカモシカを見て聞きました。
「カモシカよ。クモを見なかったかね? わしはクモをこらしめてやりたいのだ」
 クモは、カモシカの声をまねしていいました。
「おそろしいものをおさがしですね。クモのおかげで、わたしはこんなあわれなすがたになったんですよ。ついさっきまで、元気に走りまわっていたのに、クモに足をふりあげられたとたん、みるみるやせて、しなびてしまいました。あなたも気をつけたほうがいいですよ」
 カバ王はふるえあがって、
「たのむ、わしがさがしていたなどと、クモにいわないでくれ」
と、いうなり、水のなかへもぐってしまいました。
 クモはいそいで皮をぬぎすてて、カバのあとを追いかけました。
「カバはどこだ? 出てこい! クモはここにいるぞ!」
 クモは水にむかって、大きな声でどなりました。
 カバ王はビックリして、深く深くもぐってしまいました。
 そしていちばん深いところまできて、カバはやっと安心しました。
「やれ、やれ。命びろいをした」
 ほんとうに命びろいをしたのは、クモのほうですのに。

おしまい

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