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11月14日の世界の昔話
よくばり牧師と一人の若者
オランダの昔話 → 国情報
むかしむかし、デンマークのトンデという町に、とてもよくばりな牧師(ぼくし→詳細)さんがいました。
草かりの季節なり、一人の若者が、この牧師さんのところではたらくことになりました。
夕方になると、若者は馬車(ばしゃ→詳細)の用意をしました。
ほかに手つだいの三人の使用人をつれて、若者は草かりをするために馬車を走らせました。
若者は、三人の使用人にいいました。
「あんな牧師さんのために、苦労して草をかることはないぜ。食い物や飲み物があるうちは、たらふく食べたり飲んだりしよう。それがすんだら横になってねむりゃあいい。すきなようにやろうじゃないか」
「それはありがてえ。おおいに楽しくやろう。さあ、食った食った、飲んだ飲んだ!」
四人はおなかがいっぱいになると、馬車の下でねむってしまいました。
朝になって目をさますと、若者はまたいいました。
「今さら仕事をすることもない。せきにんはおれがすべてひきうける。今日もすきなようにやろうよ!」
「それはありがてえ、楽しくやろう」
みんなは、のこっていたものを食べると、お昼になるまで遊んですごしました。
「そろそろ、牧師さんのところに帰る時間だ。何もしないで帰って、しかられないかね?」
使用人が聞くと、若者はいいました。
「ビクビクすることはないぜ。おれはもう、どうしたらいいか考えてあるからな」
帰るとちゅう、こがねムシがたくさんいる場所を通りかかると、若者は命令しました。
「馬車をとめろ。さあ、みんなおりて、あのこがねムシをカゴいっぱいに集めてくれ」
若者と使用人は、こがねムシをカゴに集めて教会に帰りました。
「ただいま帰りました」
「ごくろう、牧草地はのこらずかったかな?」
「もちろんです。それから、とちゅうでいいものを見つけたんですよ」
「若者よ、いったい何を見つけたのかね?」
「はい、牧師さん、ひとむれのミツバチですよ」
「おお、そういえばさっき、わしのミツバチが巣箱からにげたのじゃ」
「えっ、牧師さんのミツバチ?」
「そうじゃ、わしのミツバチにちがいない」
「しかし、あのミツバチはわたしが見つけたものです。牧師さんはお金持ちですから、貧乏なわたしにくださいよ」
「いや、若者よ、ぜったいゆるさんぞ!」
「おねがいです。そこをなんとか」
「だめじゃ。ミツバチはどこにいる?」
「はい。それはカゴの中にいます。そのかわり、わたしはのろいますぜ。カゴの中のミツバチよ、こがねムシになれ! 夕べおれたちのかった草よ、土にもどれ!」
「ふん。なにがのろいだ! そんなことが、おまえにできるものか」
牧師さんが、カゴのふたをあけてみると、中にはこがねムシがいっぱいです。
「なっ、なんと! それでは、かった草は、どうなってるいるのじゃ? そこの者よ、見てきてくれ」
もどってきた使用人は、牧師さんに報告しました。
「牧師さん! 草はすみのところがかってあるだけで、ほかはぜんぶもとにもどっています」
牧師さんはおどろいて、ポカンとたったままでした。
おしまい