2月10日の日本の昔話
盗っ人小僧
むかしむかし、彦一(ひこいち→詳細)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
あるとき、殿さまのおつかいで、船に乗って遠くの島に行くことになりました。
船はどんどん沖に出て、今夜は船で寝ることになりました。
(さて、そろそろ寝るとするか)
と、思ったそのとき。
「かいぞくだー!」
と、言うさけび声がしました。
海を見ると、かいぞく船が、もうまぢかにせまっています。
お客は持っている金や大切なものを、どこにかくすかまよって、上を下への大さわぎです。
船は大ゆれにゆれるし、このままでは、かいぞくにおそわれる前に、船がひっくり返ってしまいそうです。
そこで、彦一は台の上にのって、大きな声で言いました。
「みんな、落ちついて。お金は少しだけ自分のふところに入れて、あとは全部おらにあずけてくんろ。かいぞくが来ても、お金はおらがちゃんと守るで」
どうせこのままでは、かいぞくに有り金ぜんぶ取られてしまいます。
お客たちはワラにもすがる思いで、彦一にお金をあずけました。
彦一はお金を少しずつ袋(ふくろ)に分け、見ただけではわからないように、着物のあちこちにかくしました。
そして、お客にたのんで、柱に体をグルグル巻きにしばりつけてもらいます。
それからしばらくして、船に乗り込んできたかいぞくの親分(おやぶん)は、お客から財布(さいふ)を取り上げにかかりましたが、柱にしばられた彦一に気づいて声をかけました。
「小僧! そのざまはどうした?」
彦一はうそ泣きをして、目に涙をうかべると。
「かんにんしてくだせえ。おら、みなし子で腹がへってたまらねえから、船にしのび込んで客の財布さ、ぬすもうとしただ。だども一文も取らねえうちに、つかまってしもうただ」
「ふん。小僧のぶんざいで金をとるとは、大したやつだ。けども、おめえも運が悪いのう。この船の客はみんなびんぼう人ばかりじゃ。今度コソ泥に入るときは、もっと金持ちをねらえよ」
親分はそう言いながら、手下とともに自分の船にもどって行きました。
お客は命びろいをした上に、お金も少し取られただけですんだので、かしこい彦一にたいへん感謝(かんしゃ)したということです。
おしまい
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