2月12日の日本の昔話
金の持ち主
ある日、庄屋(しょうや→詳細)さんが道を歩いていると、大きな袋が落ちていました。
中を見ると、小銭がザクザクと入っています。
ざっと見ただけでも、二千枚はありそうです。
「こらあ、えらい落としもんだで、落とし主は泣いとるじゃろう」
と、庄屋さんは家に持って帰り、村に知らせの者をやりました。
すると、さっそくあらわれたのが吾助(ごすけ)と兵六(ひょうろく)です。
ふたりとも「おらのだ」「いんや、おらのだ」と、言うのです。
袋をかくしてふたりの前に出た庄屋さんは、
「落としたお金のことをくわしく話しておくれ」
まずは吾助が、
「へえ、あのお金はおらがまずしい中から一文、二文とつぼにコツコツためたもんだべ。だども、おっかあが病気になったで、町へ医者さ呼びに行くのに、袋に入れて持って行く途中だったべ」
これを聞いていた兵六が、
「うそをつけ、この盗っ人(ぬすっと→どろぼう)が。あれはおらがつぼにためた金だ。いっしょうけんめいためてただが、今日つぼを見ると空っぽになってただ。きっとこいつが盗んで袋に入れて行こうとしたにちがいねえ、庄屋さん、こいつはとんでもねえやつでごぜえますだ。だいいちこんな貧乏人に金がためられるわけねえだべ」
ジッとふたりの話を聞いていた庄屋さんは、
「そうかい、ところで吾助に兵六。なくしたお金は何枚ぐらいじゃった」
「それが、数えたことがねえだから、だども、つぼの首まではあっただ」
「おらもはっきりとは。だども、きっちりつぼの首のところまでたまっとっただべ」
ふたりとも、ちゃんとは答えられません。
そこで庄屋さんは、
「わしが見たところ、千枚はあったが。そんじゃひとつ、おまえさん方のつぼに入れてきっちり首まで入ったほうが本当の持ち主、ということになるな。よし、ふたりとも、つぼを取りに帰っておいで」
ふたりはさっそく家に帰り、めいめい、つぼをかかえてもどってきました。
ところがどうじゃ、吾助のはなんともでっかいつぼです。
「庄屋どん、吾助のやつは欲深じゃて。あんなにでっけえつぼさ持ってきて」
と、得意そうに差し出した兵六のつぼへ、庄屋さんはお金をザラザラッと入れますと、たちまちお金はあふれて、ザクザクと畳の上へ落ちました。
青くなる兵六に庄屋さんは、
「兵六、金は首のところまでたまっとったんじゃ、なかったかのう」
続いて吾助のつぼに入れかえると、ピッタリ首のところまで入りました。
「このお金は吾助のもんじゃ。お金は本当は二干枚あったんじゃがの、干枚と言うたら、うそをついておる者が干枚くらい入るつぼをさがして持ってくるじゃろう、と思うたんじゃ。こら兵六、悪いことはもう二度とするでないぞ。それから吾助、こんな大事なもん、もう落とさんように気をつけるのじゃぞ」
お金はぶじに、持ち主の吾助のところにもどりました。
おしまい
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