3月11日の日本の昔話
ネコに教わった剣の道
むかしむかし、あるところに腕のたつさむらいがいました。
さむらいは、剣のほかに囲碁(いご)が大好きで、毎晩のように、仲間を集めては夜おそくまで碁(ご)をうっています。
ところが、あるばんのこと、急に行灯(あんどん→詳細)の明かりが消えました。
ふしぎに思って油皿を調べてみたら、すっかり油がなくなっています。
さっそく家の者を呼んで注意したら、
「油がきれるなんてとんでもない。朝までもつようにと、たっぷり入れておきました」
と、言うのです。
しかたなく新しい油をついで、碁をうちはじめましたが、しばらくすると、また明かりが消えます。
「これはあやしい。何者かが油をなめに来るにちがいない」
そこで明かりをつけたまま、部屋をはなれて外から中をのぞいていたら、なんと、イタチほど(イタチの体長は、約三十センチ)もあるネズミが現れ、行灯にのぼって油(ネズミは油が好物で、油でできた石けんなども食べます)をなめはじめたではありませんか。
「さては、ネズミのしわざであったか」
おこった家の者が、中へとびこもうとするのを押さえて、さむらいが言いました。
「待てまて、あのくらいの古ネズミともなれば、あとでどんな仕返しをされるかわからない。わしらが手をくだすより、ネコを連れてきたほうがいい」
つぎの日、となりの家からネコをかりてきました。
行灯の皿にたっぷりと油を入れ、ネズミの現れるのを待ちます。
やがて、天井からきのうのネズミがおりてきて、行灯のそばへ近づいていきました。
「それっ!」
抱きかかえていたネコをはなすと、ネコはいきなり部屋にとびこみました。
ところが、ネズミはおどろいたようすもなく、ヒラリと体をかわし、ネコをにらみつけます。
ネコも負けずにネズミをにらみつけ、今にもとびかからんばかりに、低いうなり声をあげました。
次のしゅんかん、
「ギャオオオーッ!」
鋭い叫びをあげて、ネコがネズミにかみつきましたが、おどろいた事に、それより先にネズミがネコののどぶえをかみ切っていたのです。
ネズミはネコをふり落すと、そのまま、ゆうゆうと天井へのぼっていきました。
「なんという、ばけネズミだ。これでは、並のネコでは、とても歯がたつまい」
今度は、近所でも評判のかしこいネコを借りてきました。
なるほど、見るからに美しいネコで、その落ちつきはらった態度は、ネコとは思えないくらいです。
ネコは、なぜここへつれてこられたのかがわかるらしく、夜になると、自分から部屋のすみにかくれて、ネズミが現れるのを待っていました。
そして、ネズミが現れてもすぐにはとび出さず、ゆっくりと近づいていき、
「ニャオーン」
と、鳴きました。
ネズミも足を止め、ネコの方に向きなおると、サッと身がまえます。
ネコはそれでも動こうとせず、静かにネズミをにらんだままです。
二匹がにらみあったまま、長い時間がすぎました。
「いったいどうしたのか」
さむらいも家の者も、かくれたまま、かたずをのんで見守っています。
ついにがまんのできなくなったネズミが、ネコにとびかかりましたが、ネコは相手をネコパンチでたたき落とすと、そののどぶえにかみついたのです。
「チューーーゥ!」
ネズミはそれっきり、ピクリとも動きません。
「なんともみごとな技よ。まるで、剣のこころえがあるようじゃ」
さむらいはすっかり感心して、思わずつぶやきました。
「勝負というものは、しょうじにうつる、日ざしのようなものだ。強い日の力でもってすれば、うすいしょうじ紙をやぶることなど、じつにかんたんである。だが、日ざしはけっして無理をしない。長い間、しずかな日ざしでてらしているうちに、紙はだんだんと薄くなり、ついに破れてしまう。すると日ざしはすかさず、部屋の中までさしこむ。どんなに力の弱いてきでも、こちらからやっつけるのはむずかしい。あいてががまんできずにおそいかかってくるしゅんかんこそ、たおすべき時である。なぜなら、相手はあせっていて、力の半分も出しきれないからだ。これは武芸者(ぶげいしゃ)たるものが、常に考えなくてはいけないことである」
ネコに剣の道を教わったさむらいは、それいらい、どんな動物にも学ぶことがあると、心を入れかえて修行をつみ、だれにもまけない剣道の名人になったといいます。
おしまい
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