3月11日の小話
水中の小判
大阪の商人が、江戸ヘむかう船にのっておりました。
ところが、この商人。
うっかりして、百両(七百万円ほど)の小判を、海へおとしてしまいました。
さあ、たいへん。
百両といえば大金です。
船は、すぐとまりました。
とまりはしましたが、さて、どうしたらよいかわかりません。
船の中は、大さわぎです。
すると、ひとりの男が、
「もし、もし。わたしは、長崎のものですが、よい物を船にのせております。いま、出してしんぜましょう」
と、大きな荷物をほどいて、ビードロ(ガラス)のつぼを、取り出しました。
このつぼの中へ商人を入れ、長いつなをつけて海の中ヘおろそうというのです。
さっそく、長いつなをつけて、みんなで、しっかり持ちました。
「そーれ。しずかに、おろせ」
つぼは、そろりそろりと、海の中ヘしずんでいきます。
「どうじゃ?」
「小判は、見えるか? 見えんか?」
船の上から、口ぐちに、たずねますと、
「見えるわ、見えるわ。たしかに、見える」
海の底から、ヘんじがあがってきました。
みんなが、ほっとしていますと、海の底から、
「たしかに、小判が百両、見えておる。だが、取ろうにも、手が出されん」
おしまい
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