4月24日の日本の昔話
ひげの長者
吉四六(きっちょむ)さん
むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
吉四六さんの村には長兵衛さんという、仙人の様に長いあごひげを生やしたお金持ちの老人がいました。
そしてこの老人は、
「おれのひげは、日本一だ!」
と、いつも威張っているのです。
そして自慢のひげを褒める人がいれば、誰でも家に連れて来てごちそうをするのでした。
ある夜の事、吉四六さんが長兵衛さんの家に遊びに行ってみると、長兵衛さんは見知らぬ二人の旅人をもてなして、飲めや歌えの大騒ぎでした。
「こんばんは、長兵衛さん。今日はご機嫌ですね」
吉四六さんが言うと、長兵衛さんはにこにこ顔で、
「吉四六さん、喜んでくれ。
実はこの客人は、伊勢の国(いせのくに→三重県)のひげの長者のお使いだそうだ。
ひげの長者は、その名の通り大変長いひげを持っておられたが、一年前に亡くなられる時、遺言として、
『これから日本一の長ひげの男を探し出して、その男に黄金千両をわたしてくれ』
と、言ったそうじゃ。
それで、このお客さんたちは国々を探し歩いた末、やっとわしの日本一のひげを見つけて下されたのじゃ。
だからわしは、明日から客人と一緒に伊勢の国へ行って、黄金千両をもらってくるんだ」
と、答えました。
「へえ、まあ、それはおめでたい事で」
吉四六さんは適当に相づちを打って、自分もごちそうになりましたが、旅人が酔い潰れて寝てしまうと、長兵衛さんを別室に呼んで尋ねました。
「長兵衛さん。お前さんは寝る時、ひげはふとんの外に出して眠りますか? それとも入れて眠りますか?」
「おや? 吉四六さん、どうしてそんな事を聞くんだね?」
「いや、実はさっき、かわや(→トイレの事)に行った時、客人が二人で話しているのを何気なく耳にしたが、これもやはり長者の遺言で、黄金を渡す前にひげの出し入れを聞いて、はっきり答えが出なければ黄金を渡さないらしいんだ。遺言だから長兵衛さんに言って聞かせるわけにもいかず、うまく答えてくれればいいと話し合っていたんだよ」
「何だ、そんな事だったら、わけもなく答えられるよ。なにせ、自分のひげじゃないか」
長兵衛さんはそう言いましたが、いよいよふとんに入ってみると、今まで気にもしなかった事なので、いくら考えてもどっちかわかりません。
試しにひげをふとんの中に入れて眠ろうとすると、いつも出していた様な気がしますし、かといって出してみると、なんだか寒くて眠れません。
「こりゃ、困ったぞ」
長兵衛さんがひげを入れたり出したりしているうちに、真夜中になってしまいました。
するとどこからともなく、ミシリ、ミシリという足音が聞こえてきます。
「はて? 今頃、誰だろう?」
顔をあげてみると、しょうじに二つの怪しい影がうつりました。
後を付けてみると、その影は土蔵の前に忍び寄って、扉の錠を壊し始めました。
驚いた長兵衛さんは、大声で、
「泥棒! 泥棒!」
と、叫びました。
するとその声に家の人たちが目を覚まして騒ぎ出したので、泥棒はそのままどこかへ逃げてしまいました。
さて、夜が明けると、吉四六さんがにこにこしながらやって来ました。
そして、尋ねました。
「長兵衛さん、ひげの事はわかったかね?」
「ああ、吉四六さん。それどころか、あの客人は泥棒だったよ」
「で、何か盗まれたかね?」
「いや、昨夜はひげの出し入れが気になって、昨夜は眠れなかったんだ。
その為、早くに泥棒に気がついたから、何も盗まれなかったよ。
だが吉四六さん、あの泥棒は馬鹿な奴だな。
ひげの出し入れの事を言わなければ、わしはぐっすりと眠っていただろうに」
それを聞いた吉四六さんは、大笑いしました。
「わっはははっ。
長兵衛さん、そのひげの出し入れは、実はおれの作り話なんだ。
あの二人があやしいと思ったので、お前さんが眠らないように、あんな事を言ったんだよ」
「おや、そうだったのか。でも、どうしてあの客人が泥棒だという事に気がついたんだ?」
「それはだな。お前さんのひげが、日本一でないからだ。お前さんよりも長いひげを持つ者は、町へ行けばいくらでもいるさ。何でも自分が一番だとうぬぼれると、今度の様に人から騙されるんだ」
「・・・なるほど」
この事にこりた長兵衛さんは、もうひげの自慢をしなくなったそうです。
おしまい
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