5月4日の日本の昔話
海の上と、畳の上
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
きっちょむさんの村に、直吉(なおきち)という、親のいない子どもがいました。
お母さんは病気でなくなり、お父さんも捕鯨船のもり打ちでしたが、あるとき嵐にあって、船と一緒に海の底に消えてしまったのです。
それで直吉は小さいときから、生まれた海岸の村を離れて、きっちょむさんの村のおじさんの家に引き取られていたのでした。
ですが直吉は、一日として海の事を忘れた事がなく、
(おれも捕鯨船に乗って、お父さんの様な、立派なもり打ちになるんだ!)
と、いつも考えていました。
そして、十一になった時、おじさんに自分の決心を話して、生まれた海岸の村へ帰ることになったのです。
これを聞いた村人たちは、みんなせんべつを持って、直吉へ別れにやってきました。
「直吉、偉いぞ。それでこそ、お父さんの子だ」
「どうか、立派なもり打ちになってくれ」
村人たちが口々にはげます中、三平と言う若者が直吉にこう言ったのです。
「おい直吉、みんなはやたらと無責任にほめているが、捕鯨船に乗ってもり打ちをするなんて、あまり感心な事ではないぞ」
すると直吉はびっくりして、三平に聞きました。
「三平さん。それはまた、どういうわけだ?」
「聞けば、お前のお父さんは海で死んだそうじゃないか。つまり、親の死んだ不吉な海で働くなんて、縁起でもないと思ったのさ」
「・・・・・・」
この言葉に、さっきまで喜んでいた村人は、しーんと静まりかえりました。
そして直吉は、突然に嫌な事を言われて、泣き出しそうな顔をしています。
すると、この話を後ろの方から聞いていたきっちょむさんが、前に進み出て三平に尋ねました。
「三平、ちょっと聞くが、お前のお父さんはどこで亡くなったんだい?」
「直吉のお父さんとは違って、ありがたい事に、ちゃんと自分の家のたたみの上で亡くなったさ」
「ふーん。それで、おじいさんは?」
「おじいさんだって、同じ事さ。直吉のお父さんのように、海で死んではいないさ」
それを聞いて、きっちょむさんはニッコリほほえみました。
「それでは、三平。直吉が海へ行くのを、お前が反対するのはおかしいぞ」
「なんだって?」
「だって、そうだろう。親が亡くなったところが不吉といえば、お前の家は、お父さんばかりか、おじいさんも亡くなったんだろ?」
「それは、・・・そうだが」
さすがの三平も、返事に困ってしまいました。
すると、そばにいた庄屋さんが直吉の肩を叩いて言いました。
「直吉、立派なもり打ちになってくれよ」
「うん。がんばるよ!」
こうして直吉はみんなに見送られて、元気よく村を出て行きました。
おしまい
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