5月30日の日本の昔話
孝行もち屋
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
さて、そのきっちょむさんが、ぶらぶらと一人旅に出かけた時のことです。
ある町に来てみると、どこかのでっちらしい一人の小僧が、橋のたもとにたたずんで、しくしく泣いているのです。
子ども好きなきっちょむさんは、すぐに駆け寄ると声をかけました。
「おいおい、どうして泣いているんだ?」
急に声をかけられて小僧はびっくりしましたが、きっちょむさんのやさしそうな顔を見ると安心したのか、涙をふくと事情を話してくれました。
「わたしは、すぐそこの、もち屋の小僧で、重松(しげまつ)というものです。
実は昨日、五郎兵衛(ごろべえ)さんというお金持ちのご隠居さんから、お祝いに使うからと、もちを五十枚用意するようにと頼まれたのですが、先ほど、出来上がった五十枚のもちを持って届けに行ったところ、どう数え間違えたのか、もちは四十九枚しかないのです。
するとご隠居さんが、火の様に怒り出して」
「なるほど。それで、何と言って怒ったんだい?」
「はい、『祝いのもちに、よりにもよって四十九とはなんだ! 四十九は、始終苦(しじゅうく)と言って、このうえもない縁起の悪い数だ!』と」
「それは、もっともな言い分だな」
「はい。そこでわたしは、すぐ店に戻って、残りの一枚を持ってくるといってあやまりましたが、ご隠居さんは、どうしても聞き入れてくれません。
そして、『こんな縁起の悪いもちは、早く持って帰れ!』と、もちをみんな突き返されてしました。
しかし、このまま店にもちを持って帰れば、主人からこのもちを、わたしに買い取れと言うに違いありません。
でも、わたしの家は、母一人で貧しい暮らしをしているから、そんなお金はありません」
少年の足元を見ると、なるほど、てんびん棒と、もちを入れた箱が積み重ねてあります。
きっちょむさんは、気の毒そうに少年ともち箱を見比べると、何か良い方法は無いかと考えました。
「四十九は始終苦で、縁起が悪い数だが、それを縁起のいい数にするには・・・。そうだ!」
そして名案を思いついて、にこにこしながら小僧に言いました。
「重松さん、わしがお前と一緒に行って、そのもちをご隠居さんにおさめてやろう」
「しかし、あのご隠居さんは、頑固な人だから、一度言い出したら誰が行ってもだめですよ」
「なに、わしにまかせるがいい。それに、うちの村の庄屋さんもそうだが、そう言う頑固な人をやり込めるのが、また楽しいんだ」
こうしてきっちょむさんと重松は、五郎兵衛隠居の家にやってきました。
ところが隠居は、重松の顔を見たとたん、
「しょうこりもなく、またやって来たのか! 縁起が悪い、帰れ帰れ」
と、どなりつけました。
すると後ろにいたきっちょむさんが、ニコニコ顔で前に進み出ました。
「ご隠居さん、おめでとうございます!」
「はあ? きさまは、誰だ?」
「はい、わたしは重松の兄で、ただいま、もち屋に手伝いにまいっている者でございます」
「それが、何をしに来た」
「実は、もちは五十枚とのご注文でしたが、お祝いという事なので、わざわざ一枚少なく持ってあがらせたのでございます」
「何を言う! 四十九は、始終苦(しじゅうく)と言って、この上もない縁起の悪い数だ。商売人のくせに、そんな事もわからぬのか!」
「いいえ、ご隠居さん。世の中に四十九という数ほど、縁起の良いものはありませんよ」
「なぜじゃ!?」
「だって七七、四十九といって、四十九は、七福神が七組も集まった数ではありませんか」
きっちょむさんがこう言うと、ご隠居さんは、しばらく考えていましたが、やがてなるほどと思ったのか、いっぺんに機嫌を直して言いました。
「うーむ、七福神が七組か。確かにこれは縁起がよい! 気に入ったぞ! よし、早くもち代を払ってやろう。それに、お前たちにも祝い物をあげよう。さあ、何なりと望め!」
「それはありがとうございます。ではわたしどもも縁起が良いように、大黒さまのしきものにいたしますから、たわらのお米をいただきとうございます」
「よしよし、ではお米を一俵あげよう」
ご隠居さんは、さっそく下男に言いつけて、お米を一俵、持って来させました。
すると、きっちょむさんは、ご隠居さんに頭を下げて、こう言いました。
「ご隠居さん、ありがとうございます。でもこれでは、大黒さまのかたひざ分しかありませんよ。どの絵を見ても、大黒さまは、二俵並べて、座っておられます」
「あっ、なるほど。しかしお前、ただのもち屋ではないなあ」
ご隠居さんは、きっちょむさんのとんちに感心しながら、また一俵を持って来させました。
こうして無事にもちをご隠居さんに収めたどころか、お米を二俵も手に入れたきっちょむさんは、深々と頭を下げてお礼を言う重松に、
「それはそうと、おれはまだ旅の途中だから、こんな重たい物はいらないよ。では、がんばりなよ」
と、二俵とも重松にくれてやり、また旅を続けたという事です。
おしまい
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