6月12日の日本の昔話
ふたりになった孫
むかしむかし、ある村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんとおばあさんには、一人の可愛い孫がいます。
ところが家が貧乏なので、孫を二里(八キロメートル)ほどはなれた漁師の網元(あみもと→多くの漁師をやとっている、漁師の親方)の家へ奉公(ほうこう→住み込みで働くこと)に出すことになりました。
しかし孫は、奉公に行ったその晩に帰って来て、
「じいさま、おばあさん。
おら、網元の家じゃあ、骨がおれてどうにもなんねえ。
おら、あそこへ奉公するのはいやだ」
と、言うのです。
おじいさんとおばあさんは、すっかり困って言いました。
「これ。ただこねるもんでねえ」
「そうだ。何とかしんぼうして、がんばってくれ」
そしてせんべいを食べさせたり、おみやげ持たせたりして、やっと帰したのですが、あくる日の晩になると、また戻ってきたのです。
こうして孫は毎晩毎晩帰ってきては、おいしい物を食べて、おみやげを持って帰っていったのです。
ある日の事。
孫が休みをもらったと言って、珍しく昼間に現れました。
そこでおばあさんは、孫に注意をしました。
「なあ、お前。
そんなに家に帰ってばかりしては、網元さまに良く思われんよ。
つらいだろうが、もっとしんぼうせにゃ」
すると孫は、不思議そうな顔をして言いました。
「じいさま、ばあさま。
おら、網元さんに奉公してから、今日、初めて家に帰ってきたんだよ」
「初めて? 何を言う。お前は毎晩の様に、帰ってくるでねえか」
「そうだ。そしてごちそうたらふく食べて、みやげまで持って帰るでねえか」
おじいさんとおばあさんの言葉に、孫はびっくりです。
「いんや、いんや、おら、帰って来るのは、今日が初めてだ」
「???」
孫がうそを言う子どもでないことは、おじいさんもおばあさんもよく知っています。
おじいさんもおばあさんも孫も、不思議そうに首をかしげました。
その夜、誰かが家の戸を叩きました。
おじいさんが戸口に行くと、
「おらだ。今帰ったぞ」
と、いつもの孫の声がします。
おじいさんがびっくりして家の中を見ると、孫はおばあさんと話しをしています。
「こりゃ、たまげた。孫が二人になったぞ。どっちが孫が、本物じゃろか?」
おじいさんは、ふと考えました。
(そう言えば、夜に来る孫は、すこしおかしなところがあった。すると外にいる孫は、化け物かもしれんぞ)
おじいさんは、そばにあった天びん棒(てんびんぼう→両端に荷物を引っかけて使う、荷物もちの棒)を持って、用心しながら戸を開けました。
すると外の孫は、びっくりして言いました。
「じいさま、じいさま。おらは、お前の孫だぞ。そないな物を持って、どうするんじゃ」
「やかましい! わしの可愛い孫は昼間に来て、奥でばあさまと話をしとるわい!」
おじいさんが怒鳴ると、今まで孫の姿をしていたものがクルリととんぼ返りをして、一匹のタヌキになりました。
そして手を合わせて、
「じいさまや。かんにん、かんにん」
と、あやまるのです。
その様子を見たおじいさんは、すっかりタヌキの孫も可愛くなって、
「よしよし。せっかく来たんじゃから、あがっていけ。ごちそうもあるから、たんと食べて行けや」
「ありがとう」
タヌキは礼を言うと、またクルリととんぼ返りをして孫の姿になりました。
そして、おじいさんとおばあさんと本当の孫とタヌキの孫は、みんな仲良く晩ご飯を食べたのでした。
おしまい
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