6月21日の日本の昔話
お月さまに化けたタヌキ
東京都の民話
むかしむかし、小さな峠にイタズラ好きのタヌキが住んでいました。
ある日の事、町でお酒を飲んできたお百姓さんが、夜遅くなって峠にさしかかると、まん丸いお月さまが出ていました。
(おや? すっかり丸くなられたな。ではそろそろ、お月見の用意をしなくては)
そう思って、ふと横を見ると、なんと不思議な事に、お月さまがもう一つ出ているのです。
「はて? おいら、酔っぱらったかな?」
お百姓さんは目をこすりながら、もう一度、お月さまを見ましたが、やっぱりお月さまは二つあるのです。
(ははーん。さては、いたずらダヌキが、お月さまに化けよったな)
そう思って二つのお月さまをよくよく見比べてみると、一方のお月さまには、ウサギが餅つきをしている影がありません。
(わかったぞ。あの影のない方が偽物だな)
そこでお百姓さんは、わざと本物のお月さまを指さして言いました。
「やい、お前が偽物だな。もっともらしく、ウサギが餅つきをしている影なんか作りやがって!」
すると、もう一つのお月さまが、あわててウサギが餅つきをしている影を作りました。
それを見たお百姓さんは、ここぞとばかりに言いました。
「見ろ、正体を現したな、いたずらダヌキめ! 本物のお月さまが、あわててウサギが餅つきをしている影を作るはずがないだろう!」
すると、最初からウサギが餅つきをしている影があったお月さまが、くるりんと宙返りをすると、タヌキの姿を現したのです。
「やい、馬鹿百姓。おれさまはこっちだよ」
タヌキはそう言って、笑いながらどこかへと消えてしまいました。
「そっ、それじゃあ、あわててウサギが餅つきをしている影を作ったお月さまが、本物なのか!?」
なんと、ウサギが餅つきをしている影を出し忘れたお月さまが、お百姓さんに言われて、あわててウサギが餅つきをしている影を出していたのでした。
おしまい
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