7月12日の日本の昔話
カッパの雨ごい
むかしむかし、森にかこまれた小さな村がありました。
その森の中に、古いぬまがあって、一ぴきのカッパ(→詳細)がすんでいました。
このカッパは、ひどいいたずらもので、畑をあらしたり、ぬまへ人をひきずりこんだりのわるさをするので、村の人たちはたいそうこまっていました。
ある日のこと、この村にやってきた旅の坊さんが、いたずらカッパの話を聞きました。
坊さんはさっそくぬまへいって、カッパをよびだしていいました。
「おめえさんは、わるいことばかりしとるようじゃが、いったい、なにが気に入らんで、そんなことをするんじゃあ? うん?」
するとカッパは、こんなことを話しはじめました。
「わしはなあ、カッパの身の上がつらいんよ。こんなすがたでは、人間のなかまには入れてもらえず、そうかといって、魚やカメのなかまでもねえ。おもしろくねえ。だからおら、ときどきむちゃくちゃあばれまわっとるのよ」
話しているうちに、カッパは悲しくなってきました。
「お坊さま、人間に生まれかわるには、どうしたらいいだ?」
「それはのう、おまえが生きているあいだに、なにか人のためになることをすることだ」
「そうか、わかった」
カッパは坊さんに礼を言うと、帰っていきました。
その年の夏のことです。
村は何日も何日も日でりがつづいて、作物はかれるし、いどの水もなくなってしまうしで、村人たちは、毎日毎日広場に集まって、朝からばんまで空に向かって雨ごいをしました。
うらない師のおばあさんも、雨がふるようにいのりつづけました。
「雨をふらせてたもれ、雨をふらせてたもれ!」
そのころ、あのぬまのカッパが、村の中へ入ってきました。
「カッパじゃ、やっつけろ!」
村人たちは、カッパをとりかこんでおそいかかりました。
日ごろのうらみをはらそうと、なぐったりけったりです。
だけど、カッパはおとなしく、されるままです。
そして、いまにも死にそうなようすでやっと顔を上げると、雨ごいをさせてくれとたのみました。
村人たちは、またカッパがいたずらでもするのかと思いましたが、このひどい日でりに、わらをもつかむ思いで、カッパをしばったまま、広場のやぐらの上につれていきました。
カッパはしばられたまま、やっとのことで体をおこし、天をあおいでいのりはじめました。
「神さま、おら、いままでわるいことばかりして、村の衆にめいわくをかけてきた。だから、おらの命とひきかえに、村に雨をふらせてはくださらんか。どうか、おねげえですだ」
カッパの雨ごいは、何日も何日もつづきました。
そのあいだ、カッパは水も飲まなければ、食べものも食べません。
カッパのいのりの声は、苦しそうに、とぎれとぎれになっています。
「神さま・・・、おねげえです・・・だ。雨をふらせて・・・けろ・・・」
カッパのいのりがあんまり熱心なので、いつのまにか、村じゅうの人たちもいっしょになっていのりはじめました。
すると、ふしぎなことに、空には急に雨ぐもがたちこめて、大つぶの雨がポツリ、ポツリ。
とうとう、ザーザーと、雨がふってきました。
雨はみるみるはげしくなり、やがて、たきのようにふりだしました。
「カッパの雨ごいが、天にとどいたぞ!」
カッパは、天をあおぐと、
「・・・神さま、ありがとう」
はげしい雨に打たれながら、まんぞくそうな顔で死んでしまいました。
それからしばらくして、旅の坊さんがまたこの村をおとずれて、このことを知りました。
坊さんは、人間になりたがっていたカッパの話をして、
「命がけでつみほろぼしをしたんじゃもの。いつか人間に生まれかわって、この村にくるかもしれんなあ」
村人たちは、ぬまの近くに小さなカッパのはかを立て、いつまでもカッパの雨ごいの話を語りつたえたそうです。
おしまい
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