7月16日の日本の昔話
鐘突き堂を守ったカニ
神奈川県の民話
むかしむかし、相模(さがみ)の国の久根崎村(→今の川崎市)に、立派なお寺がありました。
そのお寺の山門を入ると右側に池があり、そこにはたくさんのカニやコイが住んでいました。
この池はお寺の中にあるので、カニやコイを取ったりする子どもたちも来ませんし、お参りに来る人たちが食べ物を投げ入れてくれるので、カニやコイたちはとても幸せに暮らしていました。
しかし、こんなカニやコイたちにも、恐ろしい者がありました。
それは春になるとやってくる、白サギです。
白サギは朝と夕方に何十羽と群れをなしてやって来ては、カニやコイたちを鋭いくちばしで食べてしまうのです。
だからカニやコイたちは、白サギを見るとビクビクしていました。
そんなある日、このお寺に大きな鐘突き堂が出来たのです。
この鐘突き堂は朝と夕方になると、お寺の小僧がその鐘を突いて時刻を知らせます。
その鐘の音は多摩川を越えて、遠く池上の里にまで響いたそうです。
ちょうど白サギがやってくる時間と鐘が突かれる時間が重なった為、白サギはこの鐘の音に驚いて、お寺の池にやって来なくなったのです。
ですからお寺の池に住むカニやコイたちは、鐘突き堂をとても大切に思っていました。
さて、夏の風が強い夜の事です。
お寺の近くから出た火事の火の粉が、お寺の山門に燃え移りました。
その火はどんどん大きくなり、山門から本堂に燃え移ると、今度は鐘突き堂にまで火の粉を飛ばしてきました。
これを見て、池のカニたちはびっくりです。
「大変だ! ぼくらを守ってくれる鐘突き堂が、燃えてなくなってしまう!」
そこでカニたちは池の中から次々とはい出して来ると、火のついた鐘突き堂の屋根や柱によじ登り、口から白い泡をいっぱい吹き出して火を消そうとしたのです。
もちろん、そんな泡ぐらいでは、燃え移った火を消す事は出来ません。
その為に多くのカニたちが、次々と炎に焼かれて死んでしまいました。
でも、カニたちはあきらめません。
火を恐れずに次々と鐘突き堂へよじ登ると、一生懸命に口から白い泡を吹いて、一晩中、鐘突き堂を守ったのです。
夜が明けて火事がおさまった頃、火事から逃げていたお寺のお坊さんたちが帰ってきました。
「ああ、山門が、焼け落ちてしまった。本堂も、焼け落ちてしまった」
お坊さんたちはがっかりしましたが、ふと前を見ると、池の近くにあった鐘突き堂だけが、ほとんど焼けずに残っていたのです。
「おおっ、鐘突き堂が残っているぞ!」
喜んだお坊さんたちが鐘突き堂に駆け寄ってみると、その鐘突き堂の周りには、鐘突き堂を守って焼け死んだカニたちが何千匹もいたのです。
「・・・そうか、このカニたちが、鐘突き堂を守ってくれたのか。ありがとう」
そこでお坊さんたちは鐘突き堂を守って死んだカニたちの為に、池のほとりにカニ塚をつくってカニたちの供養をしたのです。
そしてそれ以来、この池に住むカニの背中は、火の粉をかぶったように赤くなったそうです。
おしまい
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