7月27日の日本の昔話
母親にばけたネコ
ネコは年を取りすぎると、人間をかみ殺し、その人間に化けることがあるといいます。
むかしむかし、あるところに、すっかり年をとった母親と、その一人息子がいました。
とても親孝行な息子で、めずらしいものがあると、自分は食べないで母親に食べさせます。
ところが、その母親が病気になりました。
心配した息子は、なけなしの金をはたいて、高い薬を飲ませるやら、医者をよんでくるやら、それこそ夜も寝ないで看病(かんびょう)にあたりました。
おかげで、母親は元どおりに元気なからだになりましたが、ふしぎなことに、その時から母親の性格がガラリと変わってしまったのです。
あれほどやさしかった母親が、子どものようにわがままを言いだし、せっかくの食事を投げつけたり、少しでも気にいらないことがあると、くるったようにおこり出します。
そればかりか、生きものをつかまえてきて、水につけたり火にあぶったり、残酷(ざんこく)なことも平気でします。
「おっかさん、なぜ、そんなことをする」
息子がいくら注意をしても、こわい顔でにらむばかりで、ついには近所の人もこわがって、この母親には近づかなくなりました。
(はて、どうしたものか?)
考えこんでいるうち、息子はふと気がつきました。
(もしかして、あのおっかさんは、ネコが化けたものでは)
そういえば、思いあたるふしがたくさんあります。
母親が寝ている時、知らないネコがやってきて、ジッとのぞいていました。
それに、以前は大好きだったイヌをこわがります。
そもそも、医者から助からないと言われたのに、どうして、あれほど元気になったのか。
ほんとうは、ネコに食い殺されたのではないのか。
そこで息子は、母親のようすをくわしく見ることにしました。
ある晩のこと、母親は酒によいつぶれ、眠りこんでしまいました。
(おらのおっかさんは、酒なんか一滴(いってき)も飲まなかったのに)
ふしぎに思いながら、母親の部屋をのぞいてみるとどうでしょう。
母親の着物を着た一匹の古ネコが、行灯(あんどん→詳細)をつけたまま、いびきをかいて寝ているではありませんか。
(あっ! やっぱりそうだったのか。この、よくもおらをだましたな!)
息子は刀を持ってくると、いきなり部屋の戸を開け、中へとびこむなり古ネコの胸へつきさしました。
「ギャオオオーッ!!」
古ネコは鋭い悲鳴をあげ、そのまま動かなくなりました。
ところが、よくよく見てみたら、古ネコではなく、母親が胸から血を出して死んでいたのです。
「し、しまった」
息子の顔はまっ青です。
いくらひどい母親でも、殺すなんてとんでもない。
「どっ、どうしよう?」
息子はしかたなく、近所の人をよんできて、わけを話しました。
「親を殺すとは、おら、もう世の中に顔むけができない。役人につかまる前に、腹を切って死ぬから、あとのことをよろしく頼みます」
すると、その中の一人が言いました。
「まて、早まってはいかん。ネコは一度人間に化けると、死んでもなかなか正体を現さないと言うじゃないか。それを確かめてからでも、おそくないはずだ」
「そうとも。あんなおっかさんなら、わるいが、だれだって殺したくなるさ。わたしも、そうしていたかもしれない。それに、おまえさんの言うとおり、古ネコがおっかさんを殺して化けていたかもしれないよ」
しかし、死んでいるのはまちがいなく母親です。
息子は、もうすっかり死ぬ覚悟ができました。
それでもみんなの言うとおり、夜明けまで待つことにしました。
息子も近所の人も、まんじりともせず死骸(しがい)を見守りました。
よくやく、東の空が白みはじめたころ、死骸の顔が、だんだんとネコの顔に変わりはじめました。
「おう、ネコの顔になったぞ!」
顔ばかりか、着物から出ている手足もネコの足になりました。
「よかった。よかった」
近所の人も息子もホッとして、思わず手をにぎりあいます。
「それにしても、この化けネコをどうしよう?」
母親を殺したにくいネコです。
やつざきにしても気のすまないところですが、どんなたたりをされるかもしれないので、てあつくほうむることにして、寺へ運んでいきました。
その後、母親が寝ていた部屋の床下をさがすと、ネコに食われた人間の骨が出てきました。
息子はその骨も寺へ持っていき、あらためて母親の弔い(ともらい→お葬式)をしてあげたそうです。
おしまい
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