8月12日の日本の昔話
大蛇になった八郎
青森県の民話
むかしむかし、青森のある村に、八郎という、体の大きなたくましい若者がいました。
八郎は深い山に入って、仲間と一緒に大きな木を切り出していました。
あるとき、その日の仕事も終わりに近づいたので、八郎は仕事のあとで仲間たちとくつろぐ酒のさかなにしようと、谷川で三匹のイワナを捕らえて、小屋の前で焼きはじめたのです。
「ああ、いいにおいだ」
お腹が空いていたので、魚が焼けていいにおいがしてくると、もうがまんできません。
八郎は焼けた魚のしっぽをつまみあげると、頭からまるごと口に入れて、残っている二匹も食べてしまいました。
すると急に喉がかわいてきたので、桶の水を一気に飲み干しましたが、それでもたりません。
八郎は立ちあがると川へおりていって、むちゅうで水を飲みました。
そしてふと気がつくと、なんと八郎は一匹の大蛇になっていたのです。
自分の姿を見て、八郎はおどろきました。
(いったい、おれの体はどうなったのだ?! とにかく、隠れないと)
こんな姿を、仲間たちに見せることは出来ません。
八郎は長い体をずるずる引きずって、山奥へ逃げていきました。
(これから、どうしたらいいのだ? どこに住んだらいいのだ?)
八郎は考えた末、ふるさとの近くにある湖に住む事にしました。
けれども湖へいってみると、そこには南蔵坊(なんぞうぼう)という大蛇がすんでいて、八郎を湖に入れようとはしません。
八郎は南蔵坊と湖のほとりで三日三晩、激しく戦いました。
南蔵坊はおそろしく強い大蛇で、負けた八郎は血だらけの体でいくつも山をこえて、やっとの思いで隣の秋田の地へ逃れていきました。
そしてある川辺で沼地を見つけると、八郎はそこに住む事にしました。
何年かすぎたある年の冬、もっと大きな住みかがほしいと考えた八郎は、沼地の持ち主である長者に、
「ここへ水をひきいれて大きな湖にして、いつまでも住みつくことにしたいのだが、どうじゃ?」
と、話をもちこみました。
大蛇のいうことを断ったら、なにをされるかわかりません。
長者はすぐに何隻もの川舟に家族と家財道具をのせると、川辺の地から去っていきました。
それからしばらくすると、川から大波がうち寄せてきて、沼地はまたたくまに見わたすかぎりの湖になったのです。
こうして生まれたのが、秋田県にある八郎潟(はちろうがた)です。
大蛇になった八郎は湖の主となって、いまでも湖の底にすみつづけていると言われています。
そして川辺の沼地から八郎に追い出された長者は、その後、移った地でおおいに栄えて、いくつもの蔵を持つようになりました。
「これも、大蛇のおかげだ」
長者は湖へいって、感謝の供え物をささげたという事です。
おしまい
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