10月23日の日本の昔話
白ギツネの恩返し
石川県の民話
むかしむかし、石川の加賀の殿さまに可愛がられていた、弥三右衛門(やざえもん)という弓の名人がいました。
ある日の事、弥三右衛門は殿さまと一緒に狩りに出かけました。
そのとき、やぶの中からめずらしい白いキツネが飛び出してきたのです。
白いキツネは、とても縁起の良いキツネなので、殿さまはすぐに欲しくなって、
「おおっ、白ギツネじゃ。弥三よ、あれを射よ」
と、命じました。
「はっ!」
馬にまたがった弥三右衛門は、キツネを追いつめて矢をはなとうとしました。
するとキツネは、くるりとあおむけにひっくりかえって、お腹のあたりを前脚でさししめしたのです。
見てみてるとキツネはメスギツネで、大きなお腹をしていました。
キツネは目に、大粒のなみだをうかべています。
「そうか。お前は母親で、お腹には子がいるのか。・・・わかった、行くがよい」
弥三右衛門は矢をはなたずに、そのままキツネを逃がしてやりました。
これを見た殿さまは、かんかんに怒って、その場で弥三右衛門を首にしたのです。
仕事を失った弥三右衛門は、どこかほかの地でくらそうと旅立ちました。
そして峠の宿で疲れた体を休めていた、その夜の事です。
白いキツネが女の姿になって、夢に現れました。
「わたしのために、まことに申しわけありません。そのかわりといってはなんですが、これから江戸へおいきなさい。必ず恩返しをしますので」
白ギツネはそういって、夢の中から消えていきました。
次の朝、弥三右衛門は夢でいわれた通り江戸にむかい、浅草に住むことにしました。
すると年の暮れに、また白ギツネが夢に現れました。
「あなたさまに命を助けられた子どもたちは、みな元気に育っております。本当にありがとうございました。では約束の恩返しに、今から良いことを教えましょう。これからはこのお札で、病気の人たちを治してあげてください」
白ギツネはそういうと、枕元にお札を一枚置いて、病気の治し方を教えてくれたのです。
そのお札は不思議な力を持っていて、弥三右衛門が教えられた通りにお札を使って治療をはじめると、どんな病気もすぐに治ったのです。
お札の治療はたちまち評判になって、弥三右衛門は大金持ちになりました。
弥三右衛門はそのお金で、白ギツネのために立派な神社をたてたという事です。
おしまい
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