11月15日の日本の昔話
仁王とどっこい
むかしむかし、仁王(におう)というすばらしい力持ちがいました。
もう、国じゅうでは仁王にかなう者はいません。
「ずっと遠い唐の国(からのくに→中国)に、どっこいという力持ちがいると聞いたが、どーれ、出かけていって、一番、すもうでもとってくるか」
仁王は、はるばる舟に乗っていきました。
そしてようやく、どっこいの家が見つかりました。
家には、おばあさんがひとり、留守番をしていました。
「どっこいはいるかな。日本一の仁王さまが、力比ベにきたといってくれ」
仁王は、大声でいいました。
すると、おばあさんは、
「今、じきに帰ってくるでな、少し待っててくれろ」
と、笑って仁王に答えました。
おばあさんは、せっせとお昼ごはんのしたくをしています。
仁王がだまって見ていると、かまどにはまきが、まるで火事のようにゴウゴウと燃えています。
そして、その上にかかったカマの大きいこと、俵(たわら)の米を、どかっと何俵も入れたようすです。
「そんなにいっぱいごはんをたいて、いったい何人で、いいや何十人で食べるんだね」
仁王は、ためしに聞いてみました。
「これかあ、何十人なんてことあるかね。おらと、おらんとこの子どもと、あと、じいさまの三人できれいにたいらげるだで」
おばあさんは、平気な顔をして答えました。
「・・・おらんとこの子ども?」
と、いうのは、どっこいに決まっています。
仁王はすっかりたまげて、これではとってもかなわないと思いました。
「ちょっくら、お便所を貸してくれや」
仁王は、からだがブルブルふるえてくるのをガマンして、便所に飛びこむなり、そこの窓から逃げ出しました。
遠くから、どっこいがもどってくる地ひびきが聞こえてきます。
仁王は、大急ぎで舟をこぎ出し海に出ました。
さて、家に帰ってきたどっこいは、仁王がきたことをすぐにかぎつけました。
戸口の所に、大きな足跡があります。
「ははん、こんなでっかい足をしているのは、日本の国の仁王しかいねえぞ。力比べにきただな。よしよし、仁王はどこにいるだ?」
どっこいが喜んで聞くと、おばあさんが、
「あんれまあ、なんと長いお便所だベ」
と、いうので、そっといってのぞいてみると、中はからっぽです。
「さては逃げたな。ここまできて、おらと一番も勝負をしないで帰るなんて、うわさほどでもない弱虫のひきょう者。よーし、ひっとらえて、やっつけてやるぞ」
どっこいは、大きなイカリをかついで追いかけていきました。
長い長いくさりのついた、ずっしり重いイカリです。
「おーい、待てえ!」
浜辺に着いたどっこいは、もうずっと海のほうへこぎ出していった仁王の舟に向かって、
「えいやっ!」
と、イカリを投げました。
イカリは、ピューンと空を飛び、先のとんがりが仁王の舟につきささってしまいました。
長いくさりでつながれた仁王の舟は、あぶなく、どっこいの手に引っぱりこまれそうです。
そのとき、ハッと、日本の国を出るときに、八幡(やはた)さまからもらったヤスリを持っていたことを思い出しました。
どんな鉄でも切れるヤスリです。
仁王が、くさりをヤスリでこすると、くさりはプッツリと切れました。
とたんに、力いっぱい引っぱっていたどっこいは、ズデーンと海の中にしりもちをつきました。
どっこいは、切れたくさりを見ておどろきました。
「なんという怪力だ。おらでもこのくさりは切れないのに。・・・勝負しなくてよかった」
それからです。
重い物を持つときに、唐の国では「におう」とかけ声をかけ、日本では「どっこいしょ」というようになったのは。
おしまい
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