12月3日の日本の昔話
娘の助言
山形県の民話
むかしむかし、ある長者が一人娘に良い婿(むこ)を迎えようと考えて、こんな立て札を立てました。
《娘婿を、求めている。
身分や家柄は、一切問わぬ。
勇気があり、勘の良い者を求めている。
我こそはと思う者は、集まるように。
例え婿に選ばれなくとも、来た者には金一分(きんいちぶ)をやろう》
それを見た一人の若者が、飛び上がって喜びました。
この若者は前々から長者の娘が好きだったのですが、身分が違い過ぎるとあきらめていたのです。
さて、大金持ちで美しい娘の婿になれるとあって、あちこちから大勢の若者が長者の家に集まって来ました。
長者は、若者たちに言いました。
「これから、婿選びの試験を行う。
裏山から松の木を転がすから、下で見事受け止めてみよ。
死ぬかもしれんから、怖い者はこの場を立ち去れ」
見てみると、裏山には大人が三人でも抱え切れないような、太い松の木の丸太が用意されています。
それが急な裏山の斜面を転がって来るのですから、失敗すれば間違いなく死んでしまいます。
「あの、おれやめます」
「おれも、まだ死にたくないから」
「おれも、おれも」
そう言って集まってきた若者のほとんどが、金一分をもらって帰っていきました。
残ったのは二人の男と、あの娘の事が好きな若者の三人です。
「それでは、試験をはじめるぞ」
一人目の男は、転がってくる丸太を軽そうに受け止め、次の男も何とか受け止めました。
そして三人目の若者は、丸太転がしの用意の出来る間、長者の家の裏側でふるえていました。
「どうしよう。下手をすると、死んでしまうぞ。お嬢さんとは結婚したいが、死んでしまっては結婚どころではないし」
するとどこからか、こんな子守唄が聞こえてきました。
♪裏山からの、松の木は
♪紙で作った、偽物よ
それを聞いた若者は、
(なんだ。紙なら、どうって事はない)
と、なんなく丸太を受け止めました。
この試験では娘婿が決まらなかったので、次に長者は俵(たわら)を二つ下男に持ってこさせて、三人に言いました。
「この二俵の中には何がどれほど入っているか、俵に触れる事なく言い当ててみよ」
さっきの丸太転がしでは勇気を、そして今度は勘の良さを試そうと言うのです。
一人目の男は当てずっぽうを言って間違え、次の男も当てることが出来ませんでした。
若者は順番を待つ間、また家の裏側へ行って、
「どうしよう? さっぱりわからん」
と、考えていると、また子守唄が聞こえてきました。
♪俵の中身は、アワとキビ
♪入っているのは、一斗と五升
それを聞いた若者は、喜んで長者の前に行くと、
「俵の中にはアワとキビが、一斗五升づつ入っています」
と、答えました。
すると見事に正解で、若者は長者の娘婿に選ばれたのです。
そして祝言が終って嫁さんになった娘が若者に言うには、実は嫁さんも前から若者の事が好きで、あの子守唄は嫁さんが手伝いの娘に歌わせたのだという事です。
おしまい
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