12月7日の日本の昔話
大きな運と小さな運
むかしむかし、ある山奥のほら穴に、ぐひんさんが住んでいました。
ぐひんさんとは、テングの事です。
このぐひんさんのうらないはとても良く当たると評判なので、もうすぐ子どもが生まれる木兵衛(もくへいえい)と賢二郎(けんじろう)が、生まれる子どもの運をうらなってもらう事にしました。
「オン! オン! 山の神、地の神、天の神、木兵衛と賢二郎の子のぶにをお教えたまえー!」
ぐひんさんは大声でじゅもんをとなえると、まずは木兵衛に言いました。
「神のおおせられるには、お前には、竹三本のぶにの子が生まれるそうだ」
「竹三本の、ぶに?」
「そうじゃあ。人には生まれながらにそなわった、運というものがある。それすなわち、ぶにじゃ」
「と言うと、おらの子には、たったの竹三本の運しかそなわらんのか?」
木兵衛は、ガックリです。
ぐひんさんは、次に賢二郎に言いました。
「お前のところには、長者(ちょうじゃ)のぶにの子が生まれる。子は、長者になるさだめじゃあ」
「貧乏なおらの子が、長者にねえ」
ぐひんさんのうらないを聞いて、二人は村に帰りました。
それからしばらくして、二人の家に子どもが生まれました。
「玉のような男の子じゃ」
「うちは女の子じゃ」
どちらも元気な子で、二人は手を取り合って喜びました。
木兵衛の子は吾作(ごさく)、賢二郎の子はお紗希(おさき)と名付けられ、二人の子どもはスクスクと育ちました。
ある日の事、木兵衛と賢二郎が畑仕事をしているところへ、吾作とお紗希がにぎり飯を持って来ました。
「おとう、昼飯じゃあ」
「みんなで、一緒に食べようよ」
「賢二郎、そうするか」
「おうおう、そうすべえ」
四人はあぜ道にならんで、にぎり飯を食べました。
ムシャムシャ・・・、ガチン!
木兵衛が食べていたにぎり飯の中に、小さな石が入っていました。
「なんや、石なぞ入れおって。ペっ」
木兵衛は、ご飯粒ごと石をはき出しました。
すると吾作も、親のまねをして、
「ぺっ、ペっ、ペっ」
と、ご飯粒をはき出しました。
それを見た賢二郎は、木兵衛に言いました。
「ああ、もったいない事をして、石だけはき出したらよかろうに」
すると木兵衛は、笑いながら言いました。
「石だけえらぶなんて、けちくさいわい。おらは、けちくさい事は大きらいじゃ。賢二郎どんは、よくよくの貧乏性じゃのう。アハハハハハッ」
「そうは言っても、おらはどうももったいない事が出来んのや。なあ、お紗希」
「うん」
それから何年か過ぎて、吾作は町の竹屋で修行をして、古いおけを修理する輪がけの職人になりました。
お紗希は、となり村で働くことになりました。
竹職人になって村に帰ってきた吾作に、木兵衛はうれしそうに言いました。
「よしよし、それだけ技術を身につけたら立派なものや。ぐひんさんには竹三本のぶにと言われたが、がんばれば竹百本、うんにゃ、竹千本の大金持ちにだってなれるわい」
「ああ、がんばるぞ」
こうして吾作は村々をまわって輪がえの仕事をしましたが、しかしいくら働いても輪がえはそれほどお金になりません。
「ああ、輪がえというのは、つまらん仕事じゃあ」
そんなある日、となり村まで足をのばした吾作は、長者屋敷の前で呼び止められました。
「輪がえ屋さん、おけの輪がえをお願いします」
お手伝いの娘が、こわれたおけを持って屋敷から出て来ました。
「へい、ありがとうございます」
吾作は輪がえをしながら、お手伝いの娘にたずねました。
「ずいぶんと、使い込んだおけですね。しかし長者さまなら、輪がえなんぞしないで、新しいおけを買った方がはやいんじゃないですか?」
「はい、以前はそうでしたが、新しい若奥さまがこられてから、使える物は直して使うようになったんです。でもそのおかげで、若奥さまがこられてから屋敷がずいぶんと大きくなりましたよ」
「へえー、そんなものですかね。わたしはどうも、けちくさいのが苦手で」
するとそこへ長者の若奥さまが通りかかり、輪がえをしている吾作を見てなつかしそうに言いました。
「あれえ、あんた、吾作さんやないの? ほら、あたしよ。小さい頃によく遊んだ、となりの」
吾作は若奥さまの顔を見て、びっくりしました。
「ありゃあ! お紗希ちゃんでねえか。こ、ここの奥さまになられたのでござりまするか?」
「ええ。あとでにぎり飯をつくってあげるから、待っとって」
お紗希は台所に行くと、さっそくにぎり飯をつくりました。
そして長者の嫁になった自分の幸せを吾作にもわけてあげたいと思い、にぎり飯の中に小判を一枚ずつ入れたのです。
この小判は、お紗希が何年もかかってためた物でした。
輪がえを終えた吾作は、川岸へ行ってお紗希からもらったにぎり飯を食べる事にしました。
「ほう、こりゃうまそうじゃ。さすがは長者さま、飯のつやが違うわい」
そしてにぎり飯を口に入れると、
力チン!
と、歯にかたい物があたりました。
「ペッ! なんや、えらい大きな石が入っとるぞ」
吾作はにぎり飯を川の中にはき出すと、二つ目のにぎり飯を口に入れました。
カチン!
「これもか。ペッ!」
三つ目も。
力チン!
「なんや、これもか。ペッ!」
四つ目も、五つ目も。
カチン!
「何じゃ、このにぎりめしは? どれもこれもみんな石が入っとるやないか」
さいごの一つも、やはり力チンときました。
吾作はこれも川にはきすてようとして、ふとにぎり飯をわってみました。
「長者の家の飯には、どんな石が入っとるんじゃ? ・・・ややっ、これは!」
にぎり飯の中から出て来た物は、石ではなく小判です。
「し、しもうた。前に入っていたのも、小判やったんか」
お紗希の心をこめたおくり物は、深い川の底にしずんでしまいました。
この話を聞いて、木兵衛は吾作をしかりました。
「なんで、はじめに力チンときた時に、中をたしかめなかったんや! そうすりゃ、六枚の小判が手に入ったのに!」
「けど、石だけをえらんではき出すなんて、そんなけちくさい事はおとうもきらいやろ? やっぱりおらには、運がないんや」
その言葉を聞いて、木兵衛はぐひんさんの言葉を思い出しました。
「そうか、お紗希は長者の嫁になったし、やっぱり吾作には、竹三本のぶにしかないのか」
木兵衛がガックリしていると、どこからともなくぐひんさんが現れて言いました。
「木兵衛よ、それは違うぞ。
お紗希が長者の嫁になれたのは、物を大切にする良いおなごだったからじゃ。
いくら良いぶにを持っていても、それをいかせん者もおる。
反対に小さなぶにしかなくても、大きな運をつかむ者もおる。
ぶにとは努力しだいで、どうとでも変わる物じゃ。
長者になっても物を大切にするお紗希を見習えば、お前たちにも運がつかめるだろう」
それからというもの木兵衛と吾作は物を大切にするようになり、竹千本の山を持つ長者になったそうです。
おしまい
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