12月19日の日本の昔話
どくろをかついで
一休さんのとんち話
むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
その一休さんが、大人になった頃のお話しです。
「あけまして、おめでとうございます」
「今年もどうぞ、よろしくお願いします」
と、人々が、あいさつをかわしているお正月の朝。
初もうででにぎわう町通りを、汚い身なりの坊さんが一人やって来ました。
一休さんです。
しかしどうした事か、長い竹ざお一本を、高々とかついでいるのです。
そしてその先っぽに、なにやら白い物がくっついています。
「なんだい、あれは?」
よくよく見ると、それはどくろ(→人間の頭の骨)でした。
人々は、気味悪いどくろを見上げてびっくり。
「正月そうそう、なんと悪ふざけをする坊主だ」
「一休さんは、頭でもおかしくなったのか?」
と、口々にさわぎました。
けれども一休さんはそんな言葉を全く気にせず、すました顔でどくろをかついで歩いています。
物好きな人たちは、一休さんのうしろからワイワイとついて来ました。
やがて一休さんは町で一番のお金持ちの金屋久衛(かなやきゅうべえ)さんの立派な家の前に立つと、耳が痛くなるほどの大声で、
「たのもう、たのもう。一休が、正月のあいさつにまいりました!」
と、言いました。
家の中から人が出て見ると、
汚い身なりの一休さんが気味の悪いどくろをつけた竹ざおをつき立てているので腰をぬかさんばかりにおどろき、大あわてで家の主人に知らせました。
いつもうやまっている一休さんがわざわざあいさつにやって来たと聞き、主人は急いで出て来ました。
「やあ、これはこれは、久衛(きゅうべえ)さん。あけましておめでとう」
「一休さん。これはどうも、ごていねいに。今年も、どうぞよろしく」
あいさつをして、ヒョイと竹ざおの先のどくろを見たとたん、
「あっ!」
と、言ったまま、まっ青になりました。
「も、もし、一休さん、これはいったい、どうした事ですか? 正月そうそうどくろを持って来るなんて、えんぎが悪いにもほどがあります!」
怒る久衛さんに、
「わっははははははは」
一休さんは、お腹をゆすっての大笑いです。
「まあまあ、久衛さんや、正月そうそうおどろかしてすまん。これにはわけがあるのじゃ」
「どんな、わけですか?」
「うむ。その前に、わしがつくった歌を聞いてほしいがのう」
一休さんは、声高らかに歌をよみ上げました。
♪正月は、めいどの旅の一里塚
♪めでたくもあり、めでたくもなし
一休さんの歌に、久衛さんは首をかしげました。
「はて、『めでたくもあり、めでたくもなし』とは? 一休さん、これはどういう意味でしょうか?」
「うむ。
誰でも正月が来ると、一つずつ年をとる。
という事は、正月が来るたびに、それだけめいどへ近づく。
つまり、死に近づくわけだ。
だから正月が来たといって、めでたがってもいられない。
それで、『めでたくもあり、めでたくもなし』じゃよ」
「ああ、なるほど」
「どんな人でも、必ずいつかは死ぬ。
そして、このようなどくろになりはてる。
こういうわたしだって、あと何回正月をむかえられるかわからん。
あんたも、おなじじゃよ」
「はい。たしかに」
「久衛さんや、生きているうちに、たんといいことをしなされや。そうすりゃ、極楽(ごくらく→てんごく)へ行かれるからの」
「はい!」
「あんたは、大金持ちだ。
少しでいいから、あまっているお金は困っている人たちにあげなされ。
めいどまでは、お金は持って行けんからな。
はい、さいなら」
大金持ちの久衛さんをはじめ、ほかの大勢のお金持ちがこの一休さんの教えをまもって、貧しい人々を助けたということです。
おしまい
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