1月16日の百物語
一月十六日の真夜中
青森県の民話
むかしむかし、陸奥の国(むつのくに→青森県)のある村に、万次郎(まんじろう)という、とても気の弱い男がいました。
万次郎は村の誰かがなくなると、今度は自分かもしれないと、いつもビクビクしているのです。
ある日、万次郎は死んだおじいさんから聞いた話を思い出しました。
『一月十六日の真夜中に、人に見つからない様に家の屋根に登れば、その年に死ぬ人がわかる』
死ぬのが怖くてたまらない万次郎は、次の年の一月十六日、家のみんなが寝るのを待って、こっそり屋根へ登りました。
「おおっ、寒い」
万次郎はガタガタと震えながら、あちこちを見回しました。
どの家も明りが消えていて、物音一つ聞こえません。
「寒いし怖いし、家に戻ろうかな?」
万次郎がそう思った時、村の一本道をゆっくりとこっちへ近づいて来る者がありました。
それは白い着物を着て、ひたいに三角の白い紙をつけた死人です。
(ゆ、幽霊!)
万次郎はビックリしましたが、でもよく見ると、それは近くの家に住む老婆(ろうば)でした。
若者たちと一緒に畑仕事をしたり、孫の世話をしたりと、とても元気な働き者として知られていました。
ついこの前も会ったばかりで、死んだなんて話しは聞いた事がありません。
万次郎は不思議そうに、屋根の上から老婆を見ていました。
老婆はまるで魂が抜けた様な顔で、トボトボと歩いていきます。
(いったい、どこへ行くのだろう?)
万次郎の家の前を通り過ぎた老婆は、やがて村はずれの墓場(はかば)の前へ行き、そのまま煙の様に消えてしまいました。
(もしかしてあのおばあさん、今年死ぬのだろうか?)
万次郎が首をひねっていると、今度は近くの家から同じ様に死人の衣装(いしょう)をつけた娘が出てきました。
(あっ、あの娘は!)
万次郎は、もう少しで声を出すところでした。
その娘は村でも評判の美しい娘でしたが、病気になってからは寝たきりとのうわさです。
その娘も村はずれの墓場の前で、煙の様に消えてしまいました。
(はたして、あの二人は今年中に死ぬのだろうか?)
そう思うと万次郎は、恐ろしくてこの事を人に話す事が出来ませんでした。
それからしばらくすると、万次郎の思った通り、老婆も娘も死んでしまいました。
(じいさんの話は、本当だったんだ)
万次郎は、いよいよ死ぬのが怖くなりました。
それでも毎年一月十六日になると屋根に登って、今年は誰が死ぬかを確かめるのでした。
さて、ある年の一月十六日、万次郎が今日も屋根に登っていると、何とそこに現れたのは死人の衣装をつけた自分でした。
(そっ、そんな、バカな!)
万次郎はビックリして、息が止まりそうになりました。
もう一人の万次郎は屋根の上の万次郎には目もくれず、ゆっくりゆっくりと墓場のある方へ歩いて行きます。
そして墓場の前に来ると、煙の様に消えてしまいました。
「大変だー!」
万次郎は屋根からかけおりると、家の者を叩き起こして言いました。
「ああ、おらは死ぬ! 今年死ぬんだ!」
「何をバカな事を。悪い夢でもみたのだろう」
「いいや、夢じゃねえ! 実はな・・・」
万次郎は今までの事をみんなに打ち明けましたが、誰も信じてはくれませんでした。
それからの万次郎は今まで以上にビクビクして暮らし、その年の秋、突然死んでしまったのです。
万次郎の事は村のうわさになりましたが、誰もが怖がって、一月十六日の夜がきても屋根に登る人はいなかったそうです。
おしまい