1月20日の百物語
ひょうたんの大入道
鳥取県の民話
むかしむかし、ある浜辺に、一人の漁師が住んでいました。
漁師はいつもの様に浜辺で魚を釣っていましたが、どうしたわけか今日は一匹も釣れません。
「仕方ない、今日はあきらめて帰るか」
漁師がさおを引き上げようとした、その時です。
ぐぐっ!
と、さおに確かな手応えがありました。
「よしよし、何かが釣れたぞ」
漁師が喜んで引き上げると、それは魚ではなく、ひょうたんの入れ物でした。
「何だ、ひょうたんか。しかし水に浮くはずのひょうたんが、なぜ水に沈んでいたんだ? ・・・中に、何か入っているのか?」
そう言って、ひょうたんのせんを取ったとたん、もくもくもくと中から煙の様なものが立ち登りました。
そしてその煙の様なものはみるみる大きくなり、やがて大入道の姿になったのです。
「でっ、でたー!」
漁師がびっくりしていると、大入道が言いました。
「わあはははは。
よくぞ、わしのひょうたんを釣りあげてくれたな。
わしは何百年もこの海の中にいて、死ぬほどたいくつしておった。
まずは釣り上げてくれた礼に、お前を一口で食べてやろう」
大入道は大口を開けると、漁師をつまみあげようとしました。
「ま、待ってくれ!」
漁師が、大入道に叫びました。
「なんじゃ? 今さら逃げようたって、そうはいかんぞ」
「いや、逃げたりはせん。
わしも、男じゃ。
いさぎよく、お前に食われてやろう。
だが、食われる前に一つだけ頼みがある」
「うん? なんじゃ、言うてみろ」
漁師は、いかにも不思議そうに言いました。
「それは、お前みたいにでっかいのが、どうやってこんな小さなひょうたんに入っておったんじゃ? 悪いが、もう一度見せてくれ」
「なんだ、そんな事か。よし、今、見せてやるぞ」
言ったかと思うと、大入道はみるみる小さくなって、ひょうたんの中へ入ってしまいました。
(よし、今だ!)
漁師は素早くひょうたんの口にせんをして、力いっぱい海の中へ投げ込みました。
「だっ、だましたな〜!」
ひょうたんに閉じ込められた大入道は、また海の底へと沈んでしまいました。
「やれ、助かった」
漁師はほっとして家に帰り、この浜では二度と魚釣りをしなかったそうです。
おしまい