きょうの百物語
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2月15日の百物語

幽霊の道案内

幽霊の道案内
東京都の民話

 むかし、浪人が川で釣りをしていて、男がおぼれ死んでいるのを見つけました。
 見れば羽織(はおり)はかま姿の、れっきとした侍です。
 浪人は、死んだ侍を岸に引っ張り上げると、
「お気の毒に、足を滑らせて川に落ちられたのか。
 大した事は出来ませんが、せめてものなぐさめに」
と、持っていたお酒を、亡きがらの口にふくませてやりました。
 そしてむしろを集めて亡きがらにかけてやると、ねんごろに手を合わせました。
「迷わぬよう、無事に成仏してくだされ」

 さて、それから数日後の事。
 浪人が町を歩いていると、前から一人の侍がやって来て頭を下げました。
「この間は、ありがとうございました。
 お礼をさせていただきたいので、どうかわたしの家までおいでください。
 ささっ、道案内をいたします」
(はて、どこの誰だったかな?)
 浪人は、その侍に見覚えがありませんが、悪い人ではなさそうなので、そのままついて行きました。

 しばらく歩いた侍は、門構えの立派なお屋敷に浪人を誘い入れると、
「こちらで、しばらくお待ちください」
と、座敷から、すうーっと出て行きました。
 やがて屋敷の台所からは、ごちそうのいいにおいがしてきて、家の人たちの話し声も聞こえてきました。
 そのうちにふすまが開いて家の人が現れたのですが、浪人を見ると、家の人はとてもびっくりした様子でたずねました。
「あの、あなたは、どこのどなたでしょうか? また、どこから屋敷に入られたのでしょうか?」
「えっ?
 はっ、はい。
 実は、このお屋敷の主人とおぼしい方に誘われて、ついてまいったのです」
 浪人が事情を話すと、屋敷の主人は十日ほど前に出かけたきりで、行方がわからないというのです。
 それでもう死んだものとあきらめて、今日は坊さんを呼んで、これからお経をあげてもらうところだったのです。
「では、あの時の亡きがらが、こちらの主人か。
 おそらく、わが身が野ざらしのままになっている事を皆さまにお知らせたくて、わたしをこの家に連れて来たのでしょうな。
 さあ、今すぐ、亡きがらのある川岸へ案内しましょう」
 浪人は屋敷の人たちを川岸へ連れて行くと、亡きがらにかけていたむしろを取りました。
 調べてみると、やはりあの家の主人だとわかりました。
 浪人のおかげで、主人の葬式を出す事が出来た屋敷の人たちは、
「これをご縁に、末永いお付き合いのほど、お願いいたします」
と、お礼を差し出しました。
 浪人はこれをありがたくいただいて、帰って行ったという事です。

おしまい

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