4月6日の百物語
イノシシを退治した、お墓の侍
静岡県の民話
むかしむかし、伊豆(いず→静岡県の東部、伊豆半島および東京都伊豆諸島)の小さな村の竹やぶに、生きている時は凄腕と評判だった侍(さむらい)のお墓(はか)がありました。
このお墓のある竹やぶでは、とてもおいしいタケノコが取れるのですが、食べ頃になるといつもイノシシたちが先にやって来て、タケノコを食い荒らしてしまうのです。
お墓を管理しているお寺のお坊さんは、くやしくてたまりません。
そこでつい、お坊さんは侍のお墓に向かって文句を言いました。
「聞くところによると、あんたは何人もの悪人をやっつけて、その勇敢(ゆうかん)な行いで褒美をもらったそうではないか。
そんなあんたが、死んでしまったとはいえ、イノシシさえ追い払う事が出来んのか?
知っての通り、わしの寺は貧乏寺だ。
ここのタケノコを売って、何とか暮らしておるのだ。
しかし、このざまではどうにもならん。
今度こんな事があったら、備え物のお茶を出してやらんぞ。
いいや、この墓を壊してくれようぞ!」
さて、その言葉をお墓の中の侍が聞いていたのか、次の日の朝、お坊さんが新しいタケノコを探しに竹やぶへ行ってみると、あの侍のお墓の前に、大きなイノシシが何匹も死んでいたのです。
「まさか、本当にイノシシを退治してくれるとは」
お坊さんはびっくりしながらも、お礼に侍のお墓をピカピカに掃除すると、お茶と一緒に饅頭も供えました。
そして次の年の春からは、不思議な事にイノシシが竹やぶに近づかなくなり、おいしいタケノコがたくさん取れる様になったという事です。
おしまい